育児日記

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第8回 私みたいになるだけだよ!

妊娠中にこれだけは百害あって一利なし、
一文の得にもならないと言われたのが煙草である。

私は煙草は吸わない方なのだが、
うちのケンさんは煙草あってのケンさんというか、
とにかく煙草煙草で日が暮れて、
煙草がなければ生きてもいけないような人なのだ。
今時、禁煙時代のこの世において、
もはや絶滅危惧種として扱われるようなヘビー・スモーカーである。
そのケンさんに煙草を止めさせるには一体どうしたらいいのか、
なぜか煙草を吸わない私の方がイライラしていた。

赤ちゃんがおなかにいるから煙草は遠慮しようというのは一般的な話であるのに、
ヘタすると妊娠三カ月目の嫁は、赤ちゃんなしでは単なる「太った嫁」である。
残念なことに赤ちゃんの重要な器官(心臓、頭、各臓器)が作られる
妊娠三カ月目の時期に限って、妊婦はちょっと太め? くらいには見えても、
なかなかに赤ちゃんの存在を意識させることができないのだ!

煙草の害を調べてみれば、一酸化炭素で血管が収縮し、
赤ちゃんに充分な栄養が行き渡らないなど、
けっこう空恐ろしくなることが書かれているのに、
ケンさんの煙草は止むことがなかった。

そして、ある日私はぶち切れた。
「ケンさんは子供がどうなってもいいの? 
煙草のせいで変な子供が産まれたら一体、どうするのさ!」。
すると、ケンさんは黙って、怒ったようにそっぽを向いてしまった。
ケンさんが言葉で諭さなかったのはこれが初めてである。
私は悲しいような気持ちで一杯になり、北海道に住む姉に電話をかけた。
姉の答え。

姉「よく聞きなさい、妊婦は自衛隊だよ……」
私「自衛隊!」
姉「自分の身は、自分で守る! 
お前のお父さんは一日に二箱必ず吸うヘビースモーカーだったけど、
娘三人ちゃんと育ててるじゃん!我々は煙草の煙の中で育ったんだから、
どうしても嫌なら煙を避けてほふく前進せよ!」
私「…そ、そうか!」。

そうだった! 煙草に害があることが一般的でなかった二十年以上前、
私たち姉妹は父に、「くわえ煙草で」育てられていたではないか!
「わかった…! 自衛官ね♥ 私がんばるよ!」。
自分の身は、自分で守ればいい……!

悟りを開き、昨日からなんとなく険悪なムードだったケンさんに謝罪すると、
ケンさんはこう答えた。
「わー(俺)が煙草吸わないように吸わないようにって
一生懸命我慢して、我慢して、一時間も我慢してようやく一本吸った時に、
文句まで言われればもう、頭に来るじゃ!」。
それはそれは辛(つら)そうにケンさんは答えた。

そうか……。我慢してあれか……。
しかし、女が考えているよりも男の人は、仕事や普段の生活でムリして我慢して、
苦労をしているのだ。そんな男を、責めてはならない。
「もう大丈夫! うちのお父さんもヘビースモーカーだったから! 
煙草に害があっても、私みたいになるだけだよ!」
「……!」。

……その日からケンさんは私の前で吸うことを止めた。
一体、どういう意味なんだ……。


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