育児日記

この画像(記事)は、陸奥新報社提供です。無断転載はできません。

第9回 八キロ先のピザ屋まで。

お産に対するイメージというものは、
随分前から「湯を沸かせ!」であったと思うのだが。
あのお湯は一体何に使われたのだろう……。
いざ産まれるっていう時に、ちょっと腹ごしらえでもするんだろうか。
「湯を沸かせ! 蓋(ふた)を開けろ! 湯を注げ!」とか。(カップ麺か…?)
まあ、そんなわけで。
昔のお産で用意するものは、
「湯」と「タオル」という非常にロー・テクノロジーなものであったが、
現在のお産はなんとなくハイ・テクノロジーだと思うのだ。

ハイテクならばそれでいいかというと、そういうわけでもないのだが。
テクノロジーが一体何の意味をもって、
どんな風に自分に使われるのかをきちんと心得ておかないと、
ハイテクな分「なぜハイテク?」と。心配で損をすると思うのだ。

産院を選ぶポイントとして考えたいのがそのテクノロジーに対する考え方である。
例えば陣痛促進剤。
「ひょっとして日曜日が産院お休みだから、
休みの日に産まないように早めに産ませられるのかしら?」
と。妊婦の間で悪い噂(うわさ)になってる促進剤であるが、
それほど邪悪なものではない。早く産むには産むなりの理由があるのだ。

予定日を過ぎて二週間も経ってくると、
お母さんから赤ちゃんに栄養を伝える胎盤は古くなり、
赤ちゃんが呼吸するのに必要な羊水も少なくなってくる。
そうなってくると赤ちゃんがあぶない、というので促進剤を使うのである。

それでも産まれてこなければ帝王切開というのが昨今の産院のやり方である。
無事に産むことを優先した方法であるが、
助産院でそれこそ何も使わず、自然に産む方法もある。
しかし、リスクはリスクなのだ。
帝王切開のリスクと、羊水が少なくなるリスク。
どっちで行くかは自分で選ばねばならない。
だから下調べは重要だ。
陣痛促進剤であっても何でも、産院の人から正しい情報を仕入れ、
自分の考えと同じ産院を選ぶべきである。

出産に関して自然のエネルギーで産むことを、
見せつけてくれたのがドキュメンタリー映画「ガイアシンフォニー第五番」である。
映画の中、大いなる自然のエネルギーの中で静かに暮らす人たちと、
出産の場面が、なぜか地球規模の壮大なドラマであるように静かに訴えかけてきた。
ただ産むだけなのに。
産むことがこんなにもハラハラと人の心を痛いくらいに掴(つか)みかかるのかと、
ただただ泣けた。
本当の自然分娩で産む「お産の家」では、
陣痛が来てから妊婦さんに八キロ先にあるピザ屋さんまで、
おいしいピザを食べに歩かせるらしい。歩くことが安産に繋がるからだ。

私はお産に自分のダンナさんが産まれた普通の産婦人科を選んだが、
予定日を十日も過ぎてしまい、すわ陣痛促進剤か! と思った時に、
私にはとっておきの秘策があった。
「八キロ歩けば安産」である。
大きいお腹を抱えて産院から十キロほどの道のりをもたもた歩いていると、
途中で本当に陣痛が来てしまった。
そして陣痛を抱えたまま定食屋に寄り、のんきにご飯まで食べていたのである。

Powered by Mutsushinpoo Reader / ケンタク@賃貸人