[うちのバッチャ] 11. カブ男、師匠誕生

 
011. カブ男、師匠誕生
 
大根が軒先に干される季節になりました。
朝、車で外出した際には何事もなかった車庫の軒下に、いつの間にか大根が干されているということが田舎ではよく起こるのです。
気づかずに車庫入れをしたら、車の屋根に大根がごんごんとぶつかるというのを初めて体験致しました。
「何故、大根が!?」
もちろん、それはバッチャの仕業です。大根は至る所に干されていて、後に漬け物へと変わるのです。 バッチャというのは、年中野菜を干したり漬けたりしているものなんですね。春にはホッケが洗濯物の横に干されていましたが、秋は大根と柿が軒下につるされます。野菜は、干せば日持ちも良くなりますし、味わいも深まりますね。
昔は冷蔵庫やスーパーなんてものがなかったから、こうやって冬の間に食べる野菜を確保していたのでしょう。バッチャの漬ける漬け物の量というのは、半端ではありません。
とにかく、大量の野菜を相手にでかい漬物用の樽に何本も漬けるのがバッチャ流です。
そして漬けあがったバッチャの漬け物は、半端なく美味しいのです。
美味しいなら多いに越したことはないのですが、食べきれないほどあるので、うっかり多めに漬け物樽から出してしまうと、暖かい場所で乳酸菌が一気に増え、酸っぱくなってしまいます。
 
漬け物を最後まで美味しく食べるには、石が必要だと青森県弘前市で「森のイスキア」を主宰されている、佐藤初女さんは言います。
森のイスキアは、弘前のおばあちゃん達がおいしいご飯を作って迎えてくれる、教会のような場所です。70歳以上のスタッフの方達が、佐藤初女さんとひとつひとつ心を込めてお料理をされているので、食べた時にどうしてもその心が伝わってきて、「ああ、自分は大切にされているんだ」と、言葉にはできないほどの慈愛を感じてしまい、大切に生きようという思いが生まれてくるのだと思います。
一度、森のイスキアを訪ねる機会があり、じゃがいもを煮たものを頂いたら、黄金色のじゃがいもがあんまり美味しくて、泣けてきたことがありました。
佐藤初女さんは、今年で92歳。心を込めてむすんだおむすびでたくさんの人の心をほぐしてきた、穏やかで美しい印象のおばあちゃんです。
漬け物を漬ける時は、大きな樽には大きな石、小さなタッパーには小さな石を使うといいのだそうです。しかし、流石に近年に入ってから、わが家の冷蔵庫で石が上に載っているタッパーというものは見なくなりました。
 
いけない。このままでは、漬け物が酸っぱくなってしまう……。
そう思った時に救世主が現れました。バッチャにとってはひ孫にあたる我が子……あだ名は「師匠」です。
離乳食を終えた息子は、いつの間にか漬け物をバリバリと食べるような子どもになっていました。離乳食から漬け物って、その飛躍の仕方は一体何なのでしょうか。師匠の漬け物好きは、半端ではありません。バッチャの漬けた漬け物が枯渇するのではないか? というくらい、勢いよく食べます
1歳半ばになった頃から突然、自発的にカブ漬けを食べ出した息子は、カブ漬けが食卓に上がるともう、カブから手を離しません。
「カブちょうだい! カブちょうだい!」
「師匠、カブ漬けばっかり食べてないで、ご飯もちゃんと食べなさい!」
「カブ! カブ! カブ!」
おまえはカブの、何なんだ……。
この息子、焼きそばを食べれば紅ショウガ。カレーを食べれば福神漬にラッキョウと。メインディッシュを無視して横に添えてある漬け物ばかりを食べてしまいます。
最終的にはバッチャに、「カブ男」というあだ名まで付けられてしまいました。だけどすごい勢いで消費されていくカブ漬けを見て、バッチャは嬉しそうなのです。
 
 
 

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