[うちのバッチャ] 17. 不死身のヒグチさん

 
17. 不死身のヒグチさん
 
 バッチャはよく村の仲間達と一緒に温泉に出かけます。朝の九時から温泉に出かけて、夕方の四時頃家に帰ってきます。青森県内の温泉料金は驚くほど安いのです。なんと、大人一人三百五十円。三歳以下はタダ、三歳以上の幼児に関しては五十円と、とにかくお安いのです。
 一人千円ずつ払えば部屋を貸し切って朝から晩まで温泉でのんびりできるので、バッチャ達は畑仕事に明け暮れる十日のうち、一日くらいを温泉リゾートに費やします。そこに、子どもを連れて潜入した私は、あまりにもバッチャ達のおしゃべりがパワフルなので、腰を抜かしてしまいました。
 
 近所に温泉仲間のヒグチさんというすごくパワフルなおばあちゃんが住んでいて、ヒグチさんはしょっちゅうがんになったり治ったりしているのですが。不死身の生命力で生還すると、すぐに手踊り大会に出て、元気に踊っていたりするのです。
「私、踊りのことしか考えてないのよ。なんにも病気のこと、考えないからすぐに治っちゃうんだわ」
 と、イタコのような顔つきのヒグチさんは答えます。
 バッチャ達は年を取るにつれ、仏のような顔になっていく人とイタコのような顔になっていく人に分かれます。うちのバッチャは、どちかというとイタコ顔だと思います。
 バッチャ達の温泉会議に出席すると、「我がバッチャはまだまだ普通の方だ……」と感じてしまうほど、村のバッチャの元気の良さは半端ないのです。ヒグチさんが言いました。
 MRIで頭、検査しにいったらさ、『アンタ、頭が映ってないよ』って言われたのよ」
「へ? 頭が映ってないって?」
「そう、それで看護師さんが、『ヒグチさん。頭に何かしたんですか?』っていうから私、『出かけるはんで、頭さスプレー振ってきたの』って言ったの。したら、『ヒグチさん。病院さは、スプレー振らねんで来て下さい!』って言うのさー!」
「ス、スプレーのせいで頭、映らなかったんですか?」
「んだども(だけども)、外さ出かけるんだはんで、頭さスプレーも振らねんで、出かけるわけにもいかねえって言ったらさ、『ヒグチさん、スプレー振るのはダンナさんとのデートの時だけでいいですから!』ってよぅ」
「アッハハハハハ! ああ~、そうですね~。スプレー振るのは、デートの時だけでいいですよね~!」
 こんな感じで、朝から晩まで「最近あったおかしな話(オール実話)」を語り合うのです。
 
 MRI検査の当日に、頭にヘア・スプレーを振ってがんばってオシャレをしていくヒグチさんは、入院してもかなりの人気者のようです。行くと必ず看護士さんにこう言われます。
「アレ、ヒグチさん! アンタこんだ(あなた今度は)、どうしたの?」
 するとヒグチさんはこう答えます。
「こんだ、肺いくねくて(肺が悪くて)、来てランだ~」
すると看護師さんはすかさず、こう言ったのだそうです。
「んだのな!(そうだったんですか!)ところでヒグチさん、私、どだればち音頭の踊り方わからねくて、アンタさ習いてえと思ってらんだ。ちょうどいいはんで、教えてけれ!」
 ヒグチさんはその日、自分の入院する部屋の看護士さん全員にどだればち音頭の振り付けを教えたそうです。肺が悪くて入院しているのに、やっぱりヒグチさんは踊りのことしか考えていないのです。
「どだればち音頭」を教え、手術が終わるとまた奇跡的な復活を遂げて家に帰ってくるヒグチさん。バッチャ達の集まりは平均年齢がすでに八十歳以上なので、がんと言えば「私もやったなあ~」「私は大腸がんだった~」とのんきに答える強者ばかりいて、その強者達が温泉に入ってのんびりしている姿を見ると、こうやって生きていくのもいいもんだなあと思えてくるのです。
 
 
 

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