38. バッチャの日常
先日、畑で熱中症にかかって亡くなったおじいさんのニュースをバッチャと一緒にテレビで観ていたら、バッチャが言いました。
「なんも、死ぬまで畑掘らなくてもいいでばな~!」
私が言います。
「そ、そうですね。まさか本人も畑で死ぬとは、思ってもみなかったでしょうね……」
熱中症にかかるほどの暑さがつのるこの夏に、バッチャはやはり、元気なのです。熱中症の予防法は、まめに水分を補給すること。
毎年のことなのですが。夏になるとわが家のジッチャが、冷蔵庫の中の珍しいものを、ジュースと勘違いして飲んでしまい、バッチャに叱られるという事件が起きます。
例えば、りんご酢の原液ですとか、カルピスの原液ですとか。ポッカレモンですとか……。
飲んだジッチャが一気に咳き込んでしまうので、バッチャにバレてジッチャは叱られてしまうのです。
「おジッチャ! なんぼバカだのよ!」
徐々にヒートアップしていくバッチャ。バッチャには、原液を飲んでしまったジッチャの心境を思いやる機能がありません。ようするに、バッチャは短気な人なのです。
先日のこと。5才の長男がお風呂から上がって服も着ずにブラブラしていると、バッチャの怒鳴り声が響いてきました。
「サッサと着なが(着なさいよ)~!」
と。そして、反抗期を迎えた5才児の、号泣しながらも反抗する声。
「んもう~! おバッチャ、うるさいよ~!」
「いいからサッサと着へ(着なさい)! なんぼ、のんきだもんだずかさ!(なんて、のんきなのでしょうね!)」
「おバッチャ、嫌い! もう、嫌い~!」
と、子供のケンカと聞き間違えるほど大きな声が、聞こえてきたのでした。
服を着替えてなお、涙が止まらず、泣きじゃくる長男……。
「おおおっ、お母さん! なんで、バッチャはああなの? なんで師匠のこと叱るの?」
「う~ん、この世にはね、のんきな人間と短気な人間がいるんだよ。それで、のんきな人間はね、短気な人間がいないと死んでしまうんだよ」
すると、長男。
「ええっ何で?」
「あのね、お風呂から上がって服着ないと風邪引くでしょう? それに、お母さんはのんきだから、バッチャがいないと師匠に朝ご飯も食べさせてあげられないかもしれないよ? お母さんはのんきで、ご飯を作るのを忘れるから。それに、のんきだと保育園のバスにも置いていかれるし、走って追いかけているうちに車にひかれるかもしれないんだよ。」
「えっ、ええ~?」
「のんきな人は短気な人に、叱られる運命なのよ……。だけど叱られてもさ、死ぬよりはまだマシでしょう? だから、怒られたらサッサと服着ればいいよ」
こうして、「死ぬよりはマシ」と納得した息子は、
「わかった……」
と言って、スーッと眠りに就いたのでした。