この日は朝から晩まで岩木山神社前は登山囃子が繰り広げられた。行って良かった。何でかって言ったら……、神様に会ってしまったから。
登山囃子を踊り、紅白のでっかい餅を担ぎ。太鼓を打ち鳴らしながら踊り歩く一団に、なぜか飄々とえもいわれぬ楽しさを醸し出している村があって、ふらふらと私はその村の一団の後をついて歩いて いた。
林檎を御輿に載せ、にこにこと配って歩く。何より、あまりに楽しそうに踊っているのですよ。
何でだろうとずっと後ろを歩いていると、登山囃子のかけ声が不思議すぎることに気がついた。
何て言っているのかはわからない。民謡のようにもマントラのようにも聞こえる。あるいは、ジャズ。
矢野顕子が歌いながら不思議な声を出すじゃないですか。あの声と同質のものが、拡声器を持ったおじいちゃんから出ていて、自然と私は登山囃子を聴きながらトランス状態に入ってしまった……。
ふわわわわっと、なってしまった。
神様の名前は、相馬村の成田さん。林檎農家で、民謡もやるんだって。「握手して下さい!」ってお願いしたら、にこにこといろんな話をしてくれた。
「うちの村は好きでやってる有志のものだから……」って、つぶらな瞳がキラキラしてる。
その日私は神様に会った。ずっと体がふわふわしてる感じだ。岩木山が近い。まるでおかしくなりそうだった。