ばななさんの小説が読めるというのは、
この時代を生きる私にとって、ご褒美みたいなものだと思う。
文章は、おいしい水のようにするすると入ってくる。
飲み込みがたいものからも、決して逃げることなく、ばななさんは
描いている。
読んでいて、ばななさんも今、同じ時代を生きているんだなと
感じた。
養老孟司先生の「かけがえのないもの」にも通じる世界観が
根っこにあって。そして、小説というまだ行ったこともないような
川の流れに、ざぶざぶと浸かって流されていくことの心地よさ。
濁流や、せせらぎ。どこへ流されていくのかわからないという、
興奮。先が読めない小説をばななさんは、書くんだなあと感じた。
ばななさんは、がさつさの表現がうまい。
とことんまで繊細さを表現したら、がさつさの持つ素晴らしさみたいなものに救われた、ような。そんな、がさつの神様みたいなものが
降りてきている。
これは、今を生きている私たちにとって、とても重要な本だ。一番好きなのは、この部分。
『アナザー・ワールド 王国その4』よしもとばなな 新潮社より
「(略)海の中がぎっしりと生き物で満ちた濃厚な世界だったことを、いつか人は忘れていってしまうんだろうか。でも、とにかくなにかと戦い続けていくしかないし。」
「なにと?」
私は言った。
「おのれと。世界に通じる秘密の扉はおのれの中にしかないから。」
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