人食いザメと呼ばれているサメは、
別に普段人ばっか食ってるわけではなくて、
むしろ人なんか食うのは稀な方で、「人なんて一生に一度、食えるかどうかですよ……」
とEさんがサメになった気持ちで語ってくれたのがおかしくって。
「人食いザメは人も食いザメ」というフレーズが、
私は好きなんです。
それで、
土日に弘前市のギャラリーデネガで
豊島秀樹さんのワークショップ
「カケラを集めてカタチをつくる」
に参加して思ったのは、
まさに「人食いザメは人も食いザメ」
ということで。私たちは、やっぱりサメの「ごくたまに人も食うかもしれない」
という一面しか見ることができない場合が多いんだなあと思った。
参加したのは15名ほどで、
豊嶋さんに一日目は普通の自己紹介を、そして
二日目には「クリエイティブな自己紹介」を、
宿題として出されていた。
一人一人、自己紹介していったあとに、
豊嶋さんが言ったのは
「それじゃ、○○さん。今の自己紹介は手法としてどう思う?」
ということ。
手法として……!?
ようは、豊嶋さんの言わんとしているのは
自己紹介のうまいやり方ではなくて、
自己紹介には、あらゆる手法がある
ということで。
その手法をわれわれは「クリエイティブな自己紹介」として
模索していたわけです。
自己紹介でよく語られる、「何県生まれで何歳です」
という紹介を、私たちは別段興味もないのに
言ってしまうし、聴いてしまう。
「へ~、○歳なんや」って、そこからはその人が見えることはない。
サメの年齢を聞いてもピンとこないのと一緒。
だけど、そのサメがどんな人生を歩んでいて、
どんなことを大切にしているかを
短い自己紹介の時間で知ることは難しいんだけど、
「この映画のこのシーンをなぜか、覚えているんだよね…」
とサメが言ったら、
途端にそのサメを、ただの人食いザメという風には
呼べなくなってしまうと思う。
豊嶋さんが学生時代のことを短く語ってくれた。
量子論の授業の後に
黒澤明の「羅生門」を観に行ったら
その羅生門っていう映画はあるとき、盗賊が侍の妻を犯してしまうんや。
それで、裁きにあうんやけど
そこで言う三人の証言が、バラバラやねん。
(goo映画の解説によると、
三人のバラバラの証言とはこのこと。)
①盗賊によると、女がどちらか生き残った方に付いていくと言うので夫と対決し、彼を倒したが女は消えていた
②妻によると、盗賊に身を任せた自分に対する夫の蔑みの目に絶えられず、錯乱して自分を殺してくれと短刀を夫に差し出したが、気が付いたら短刀は夫の胸に突き刺さっていた
③殺された夫の霊によると、妻が盗賊に、彼に付いていく代わりに夫を殺してくれと頼むのを聞いて絶望し、自分で自分の胸に短刀を刺したが、意識が薄れていく中で誰かが胸から短刀を引き抜くのを感じながら、息絶えた。
豊嶋さん
「せやから、同じことが起こっていても
みんな感じることがそれぞれ違っていて、
それでその証言をしたところで、映画は終わってしまうんや」
いろいろな手法で自己紹介を
されてみたんだけど、
二日間一緒にいたうちの二日目だったから、
「今日の写真よりも昨日の作品の方があなたのことを良く表している気がする」と
参加者の女性に言ったら、豊嶋さんに言われた。
「でも、それもまた羅生門の映画みたいに、
スイッチさんから見た一面であって、彼女にとっては
こっちの写真の方が、自分を表しているのかもしれへん」
って。
まさしく、その通りだなと思った。
私は、本当のことを知ってる人が好き。
豊嶋秀樹さんは、にこにこしてて、エエ人で、スキーが好き
らしいんだけど「この人すごい」と思えるのは
なにか、すごく本質的なことを普通に認識しているところなんだと
思う。すごいのに普通。
だからかえって、得体のしれない格好良さが
あるんだよね。
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