青森県の民俗学研究家・田中忠三郎さんの本
『物には心がある。消えゆく生活道具と作り手の思いに魅せられた人生』が
アミューズ エデュメントから発売された。
そして、同時に11月1日から開館するアミューズミュージアム
(浅草寺に隣接)のグランドオープンから、
田中忠三郎さんが長年に渡って収集した「ぼろ」の
展覧会『布を愛した人たちのものがたり』展が始まった。(2009年2月28日まで)
奇跡のテキスタイル・アートと呼ばれた、ぼろ。
誰も見向きもしなかったぼろぼろの布。
それは、青森県の漁村、農村、山村の女性が、
家族に少しでも暖かい物を着せようと
細かな布を接いで、接いで、そして
少しでも美しくという思いを込めて作られた布である。
静謐な美しさ。
時を得て、思いが込められたものにしか宿らない霊精。
こぼれてくる空気がある。
奈良美智さんが、grafと初めて廃材を使った小屋を建てた時。
廃材から、本当にこぼれてくるほどの空気を感じたのを覚えている。
忘れられないから覚えている。
それと同質の、何かたまらないものが
「ぼろ」にあると思う。
「汚くないんです。美しいんです。」
NHKテレビの熱中時間に登場した田中さんが語った言葉。
この美しさや、女性達の布に込められた思いを
大切にしてきた田中さんは、
本当に今まで誰も見向きもしなかった民具やぼろぼろの布を、
自分の使命として保存してきた人だ。
「私が捨てられない性分だから」と田中さんが電話口で語った。
「たなちゅうさんが、捨てられない性分で本当によかったです!」
と
私は答えた。
彼がいなかったら、このような思いの籠もった時代そのものが、
きれいさっぱりと忘れられてしまったであろう。
それを、展示してくれる美術館が生まれたことを、
本当に奇跡のように思う。
展示は2010年2月28日まで。