無意味せんげん - 山田スイッチ –
山田スイッチは、一切意味を求めません。ちなみに7歳男子と3歳男子を田舎で子育て日記。
2005/10/31 カテゴリー: アート。 タグ: AtoZgraf奈良美智記者会見 奈良美智+graf 『AtoZ』 展記者会見 はコメントを受け付けていません

十月二十九日(土曜日)
弘前市の吉井酒造煉瓦倉庫で
奈良美智+graf
『AtoZ』展の記者会見が開かれた。
世界中で自己の作品を展示してきた
多忙なはずの奈良さんとgrafの豊嶋さん、会場には
小山登美夫ギャラリーの小山さんまで来ている。

全ては、来年7月から弘前の煉瓦倉庫で開催される
『AtoZ』展のためである。

記者会見の開かれる吉井酒造の煉瓦倉庫は、
その日も。懐かしいような果てがないような、変な空気に包まれていた。
煉瓦倉庫の中に入り、人と離れ、静かな場所に立つと
意識が滔々としてくる
いつも思う。これはどういうことなんだろうか?と。

暗い廊下に灯された灯りを見上げれば、
小さい頃の記憶が引きずり出されそうになり、
後頭部がじんわりしているのを感じる。

この日は雨が降っていたので
中庭の緑が濡れていた。
ガラス越しに吉井酒造の屋根を見上げる。

意味はわからないけどただ感じる。
黙って見てると小山さんが隣に立ってた。
この気持ちを譲りたくて少し場所を離れる。
煉瓦倉庫の中では一人で感じる時間はとても大事だ。
小山さんも黙って雨に濡れた中庭を眺めている。

「ここ、いいよね。」
と言われ、顔がほころぶ。
世界を駆け回る小山ギャラリーの小山登美夫さんは、
すごく小さな、言ってしまえばボロい中庭を眺めて、
何かを感じてしまう人なのだ。
我々は否応もなく何かを感じてしまう。
そして、煉瓦倉庫の中で感じる空気が大きく振幅したのは
2002年に開かれた奈良美智展『I Don’t mind If You Forget Me』
だった。その時、煉瓦倉庫の黒い空間に浮かんだ奈良さんの絵からは、
膨大な空気が漏れていた。

意識が滔々となってしまう。

こんな展示は二度とない、そう思っていた2002年から、
二年経って開かれた展示『From the Depth of My Drawer』では、
見たこともない巨大な空間の使い方。
倉庫の黒い壁に浮び上がるアフガニスタンの人と風景は、
7メートルの高さいっぱいに浮かんでは消え、
胸が苦しかった。

真っ暗な倉庫の中に白い大きな小屋がある。
その中には床から花が芽吹いていて、
中では子ども達が絵本を散らかしながら
心地よさげに眠っていた。

奈良さんの展示はその世界の空気を作っている。
そして吉井酒造の煉瓦倉庫は、
奈良さんの世界を倍加させる。
grafの作る小屋(時には二階建て、三階建ての小屋)は、
廃材から作られている。
その廃材からは、その木が、生まれてから過ごしてきた
時間と記憶が滲み出ている。よくわからないが泣けてくる。
その小屋を前にすると喉元が苦しくなるのだ。

私が今日の記者会見を待ち望んでいたのは、
STUDIO VOICE で奈良さんと豊嶋さんが交わしたこの会話のせいだと思う。
この会話に、できるかもしれない未来が。
私も望んで手に入れたい未来が、
一つ生まれそうな気配に満ちていたのだ。

豊嶋
「タイのチェンマイにランドっていうプロジェクトがあって。
あれをカミンに連れられて見に行ったときに、ただの田舎の水田の風景でボロイ小屋があって、それを見て超未来って思ったんですよ。そのときどうしてそんな気分になるのか、よくわからなかった。でもよく考えたら自分が理想としている生活像で今ないものだから、自分にとって。手に入れるとしたら未来でしか手に入れられないから、未来に見えたのかなと思った。その後すぐにシンガポールに行ったけど全然感動しなくて。廃墟っぽくてありえない。シンガポールは過去でチェンマイは未来。それはすごく個人的なことかもしれないけど。」
   

奈良
俺はそれをアフガニスタンで感じた。アフガニスタンに行った後、すぐニューヨークに行ったんだけど同じこと感じて。人間の悪い進化形っていうのがニューヨークにあるなと思った。ビルの高さが権威を表してたり、薄っぺらな表面だけの笑顔。人と人との間に契約があったり、いろんなものが出てくる。アフリカでね、人の骨が見つかって、その人達は異常に脳みそが発達してたの。農耕地とかがあったんだけど、いわゆる文明とかはなくて。推測なんだけど、その人達は自分が食える分はあるから、ずっと海を見て暮らしてたんじゃないあか、全部想像の中で楽しんでたんじゃないか、それで脳味噌が大きくなって、それってすごく進化形なんじゃないかな。農耕地があって、寝るところがあって。」

STUDIO VOICE (スタジオ・ボイス) 10月号 [雑誌]

STUDIO VOICE vol.358 OCTOBER
特集 2006年夏、弘前でのゴールに向けて、
奈良美智+graf「AtoZ」始動! 
より抜粋。

この「未来」について。
記者会見で豊嶋さんは自分にとって可能性が感じられるか、
感じられないかだと語ってくれた。
そして吉井酒造で開かれる「AtoZ」は、バリバリ未来なんじゃないか、と……。
私の期待は確信に変わっていた。
「AtoZ」に参加すれば、この未来(夢)は手に入るんじゃないかと。

淡い夢のような物が現実になり、
奈良さんや豊嶋さんの感じている世界を
追体験できるのではないかと
感じていたのだ。

記者会見の詳しい内容は次号に。

つづく!