無意味せんげん - 山田スイッチ –
山田スイッチは、一切意味を求めません。ちなみに7歳男子と3歳男子を田舎で子育て日記。
2005/09/19 カテゴリー: アート。 タグ: 公演舞踏雪雄子 雪雄子 舞踏公演 はコメントを受け付けていません

写真を撮るのが誰よりも下手なスイッチですが、
何故ヘタなのかというと、
本当にいいシーンでは「わー」とか言って
カメラのことを忘れて見ているせいなのですね……。

いいシーンが、終わった頃にハッとカメラの存在に気付く……。
だからなんとも言えぬへぼい写真が家にいっぱいあります。

そんなスイッチが根性出して写真を撮りました。

先週、青森県に住む舞踏家の雪雄子(ゆきゆうこ)さんの
舞踏公演を見たのですが、
彼女の舞踏にはいつも驚かされる。

会場に着くと、公演時間まであと十分という時間。
楽屋から「雪さんが呼んでます」
と声がかかって、
子連れで楽屋に駆けて行くと、

「スイッチさん! お願い。ドレスに扇子を縫いつけて!」
とのこと。
「はい?」
ドレスに扇子を縫いつけて! こんな感じで。お願いね!」
公演まであと八分。
「わ、分かりました~!」

そして慌てて「ドレスに扇子を」縫いつける私……。
突然、床に置かれて縫い物を始める母に、
泣きで怒りを表明する息子。
「ふぎゃー!!」
「ああっ! 子どもがいたら舞台が手伝えない!!」

そこへ友人のSちゃんを廊下に発見!
「Sちゃん!! お願い、ドレスに扇子を縫いつけて!!」
「はいぃ!?」

そしてよく分からないままにドレスに扇子を縫いつけるSちゃん。
「何故私はこんなことを?」
「ごめん、すまん! お願い!」
そしてドレス完成。雪さんが纏う。

「ごめんなさいね、せっかくの衣装、先に見せちゃって。」
なんだかのんびりおっしゃるが、開演まであと一分。
「いいですから、会場で待ってますから!」

子どもを抱えて汗だくになって、ハンディカムを持ってきたことに
気付く私。
(映像撮るの忘れてた!)

慌てて左脇に子どもを抱えつつ、
右手のみでリュックから取り出し、
カメラを構える。すると、爆音のような
マイルス・デイビスが鳴る。

白い会場の世界が一瞬で音楽に染められる。
激しいジャズ。
そこへ、白いドレスを着た雪さんが、頭に美しい綿の木を絡めて
ゆっくりと静かに登場した。

彼女の腰には白い綱が結わえられ、
その先にはボウリングの球ほどの大きな鈴。
「臍の緒」なのだそうだ。

激しい音楽が鳴り響いている。

背後に世界を引き連れながら、
彼女は森の女王さながらに、
森の様子を伺いに、「降りてきた」感じだった。

狂ったように激しいジャズが響く。
目の前に繰り広げられる世界は、
もうどこのものとも思えない。

踊る雪さん

ただ単にゆっくりと、登場しただけで全てが
かっさらわれてしまうのだ。

後からビデオで見たら、本当に雪さんが動いたのは
5分以上ある曲の中で
舞台の端から端。ほんの、
四、五メートル程の距離だった。

波の音が響き、レイチャールズの陽気でかっ飛ばした音楽が響く。
女王は踊り出した。
高貴に、その動きは脳が引きずられるほどゆっくりなのだ。
この女王はやけに自由だ。
目の前には森が見える。
身体中が雪さんの世界に引きずられる。
レイチャールズが響く。

雪さんのシルエット

舞踏でその場に立つとき、
雪さんは不思議な言い方をする。

「自分の臍の緒が、身体の中心からだんだんと地中に伸びていく
地中の奥深くまで伸びていく、その線が、自分の身体の中心を通って、頭の頂上を通って、
天まで伸びていく……。空と、大地の間に立って下さい」

雪さんは普通に言ったが、私はこの言葉を何年も忘れていない。
音楽はビートルズの「カム・トゥギャザー」に替わっている。

この音楽で人を異世界に誘えるのは
彼女が見ている世界が彼女の身体を通して再現されるからだと思う。
その世界はあまりにも美しく、その森には美しい水が流れている。

昨年、ヨーロッパ公演を終えた彼女に、
初めて雪さんの舞踏を見たパリの学生達はこう唱えた。

「舞踏は面白いものだと思っていたけど、あなたの舞踏を見てると
何故か知らないのに、涙が出る。どうしてなのだ」と。

雪さんはただ、踊ることしか考えていないのだそうだ。