無意味せんげん - 山田スイッチ –
山田スイッチは、一切意味を求めません。ちなみに7歳男子と3歳男子を田舎で子育て日記。
2013/08/16 カテゴリー: うちのバッチャ。 タグ: うちバッチャ家事火事 [うちのバッチャ] 04. 嫁が火事を出したら はコメントを受け付けていません
 
04. 嫁が火事を出したら
 
その人が本来、どういう人なのか。そういった本質を知る機会というものは、非常時に現れるものです。
普段は優しくて当たり障りがないというのは、当たり前のことなのだと思います。
問題は、非常事態が起きた時にどれだけ人に優しくできるのか……これは、そうなってみなければわからないことであります。
注意力が散漫なまま生きてしまっている私は、無自覚のままに非常事態を招きやすい人間です。そのような嫁が家の中にいると、家族までもが非常事態に巻き込まれてしまうのです。
 
今から6年前、私は女の厄年に当たる31才(数え年で32才)でした。
大厄に当たる数えの33才は、前厄・本厄・後厄といった風に前後賞のように厄がついてきて、3年間の厄が続きます。その前厄に入ってからというもの、すごい勢いで私は事故と災害に遭い続けたのでした。
1月は事故で昨年買ったばかりの新車を大破。2月は自分が原因で火事。そして3月には物書きの命であるパソコンを夫に初期化されました……。ですが、2月に出した火事の方がショックな出来事だったので、パソコンが初期化た時は「命があるだけマシだったと感謝しよう……」と、普通に思えたのでした。
 
私が火事を出したのは雪の夜でした。
北国の冬は一日中雪が降るので、なかなか外にシーツを干すことができません。なので、私はいつシーツを洗って干したら効果的に乾くのかを考えていました。
「早朝のタイマー予約でストーブが点く前に干したら、ストーブの熱で最も早く乾くのではなかろうか?」
そう考えた私は、夜中に洗濯をしてシーツをストーブの真上に干しました。そう、真上に……。
翌朝。日も昇らないうちに私は、バッチャの叫び声で目を覚ましたのです。
「ケン! ケーン!」
と、必死に孫の名前を呼ぶバッチャの声が聞こえます。
「すわ、ジッチャが危篤状態か?」
そう思って2階の寝室から1階に駆けつけると、居間のストーブがゴウゴウと燃えてシーツを焼き焦がし、火が広がってくるのが見えました。 
 
煙はバンバン出ていて、火は煌々と燃えています。
煙に煽られながら寝室から逃げ出すジッチャとバッチャを見た私は卒倒寸前でした。幼い子どもが「おかあしゃん……!」と言って私にしがみついてきます。慌てた私はバケツに水を入れたつもりが、誤ってゴミ箱に水を入れてしまい、「これをストーブにかけるべきか、かけぬべきか?」と、水とゴミの入ったゴミ箱を持ったまま右往左往し、「うぬぬぬ……」となっていました。
「ケン、火を消せ!」
バッチャが煙に巻かれながらも陣頭指揮を執り、夫がここぞとばかりに家の中に10年間眠ってあった消化器を噴射して、無事、火は消えたのでした……。
私の干したシーツが原因で出火してるわけですから、一体どれだけ怒られるんだろう……そう思っていると、ジッチャが私の側に寄ってきて言いました。
「苦ぅしたべ……おめが一番、苦ぅしたべ……」
「おじいちゃん……!」
「苦ぅする」は、津軽弁で「心労する」という意味です。「おまえが一番心労をしただろう」と、おジッチャは私を慰めてくれたのでした。
お、おジッチャー……!」
夫は消火器で火事を消し止めた後、一言こう言いました。
「火事っきゃ起きるや?」
「ケ、ケンさーん!」
私はあまりの家族の優しさに、頭がフラフラになっていました。夫は私が事故を起こした時もこう言ってくれたのです。
「事故っきゃ起きるや?」
と。
 
 鎮火した後は燃えたストーブとソファと絨毯を小屋に移動させ、消火器の粉だらけになった家の大掃除です。一階の居間で噴射した消火器の粉は、どういうわけか二階の奥の部屋まで飛び散っておりました。火事の直後に新聞屋さんが新聞を配達しに来たのですが、煙突からまだ火が吹き出しているのを見て、別段火を消すわけでもなく、煙突を指さして去っていったのが印象的でした。
いろいろなものを片付けながら、バッチャに「こんなことになってしまって、すみません……」と頭を下げて謝ったら、バッチャは。
「気をつけたって起こるときは起こるもんだねん! なんも気にするな!」
と言って、既に朝ご飯の支度に取りかかっているところでした。バッチャが味噌汁の出汁を取りながら言います。
「しかし、なんか音がすると思って障子コ開けたら、まんどろであったなあ……」
 ま、まんどろ……!
火事によって何年ぶりかに、「まんどろ」という言葉を聞いた私。
まんどろとは、煌々と明るい様子を示す津軽弁です。火事を見て「明るいなあ」と思うとは……。この一件でまた、バッチャの底の深さを知ったのでした。
 
 
 

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