検索結果 "お弁当"

指でお話。指談講座を受けてきました!

田口ランディさんに連れられて、箱根の聖地を指談講師の牧野順子さん、

マクロビ料理研究家の田口竜三さんと一緒に回りました。(*´▽`*)

この日はランディさんが、早起きしておむすびを握ってくれていて。石仏が彫られた巨石の前でおむすびを食べて感動!! 田口家の梅干しが、森のイスキアで食べた梅干しと同じ味がしたのです!

ランディさんとはもう10年以上のお付き合いになるのですが、10年前からずっとランディさんは、優しいのです。
思いやりでいっぱいで、優しさがキラキラしてる。いつも思う。「私も、そうなりたいな」って。(*´▽`*)

翌朝に、湯河原の海で牧野さんと石の上にバランスを取って石を重ねる遊びをしていたら、初めてチャレンジされた牧野さんがどんどん石を重ねていくのに驚きました!

石の声も聴こえるんだ……! って。

牧野さんが「合氣道を30年やっていたから指談がすぐできるようになった」というお話を聞いて、

「きっとそれは、藤平光一さんの心身統一合氣道なんじゃないかな?」

と思っていたのですが、本当に牧野さんのお師匠さんが、今はもう亡くなられた合氣道の達人、藤平光一さんでビックリしました。

藤平光一さんの『氣の威力』が、私の愛読書だったから。翌日の指談講座では、牧野さんの培ってこられた合氣道の精神が、指談にすごく活きているのを目の当たりにして、震えるほど感動してしまいました。

三歳くらいの言語障害のあるお子さんが、牧野さんと指で会話をしているビデオを見て、「あたし、ほんとうはなんでもしってるのよ」というセリフに驚き、「ごはんどうしたらもっと食べれる?」という質問に、「一口が多すぎるのよね。もっと少なくしてくれたら、食べれると思う」と、言語で答えているのを見て、それを聞いたお母さんが本当に納得されているのを見て、指談ってすごいと思ったのでした。

そしてそして、牧野さんに習ったその日、私も指談の基礎が使えるようになったのです!!

耳の魔法は本当に不思議で、言葉にしなくても私たちは、きっと私たちの体から出ている微弱な電磁波や筋反射で、気持ちを伝えあっているんだと、お腹の底から納得させられました。

翌日の講習会も出たかったのですが、なんと次の日が参観日でお弁当を作らなきゃいけなくて、しかもお昼から講演会で青森市のお寺でお話しなきゃいけなかったので、慌てて帰りました。・゜・(つД`)・゜・

指談講座、すごかったです。
魔法を本当に体験したと、感じました。
そしてもう、その魔法の基礎が使えるようになったのです。

こんな、素晴らしい会を企画して下さった田口ランディさん、遠くから来て下さった牧野さん、優しさに満ちた会場の宮上幼稚園さんに、

心から感謝申し上げます。

本当にありがとうございましたー!

 

 

魔法の百均第9回「シャーベットを作ろう!」

魔法の百均第9回「シャーベットを作ろう!」
 
今年の夏は、シャーベットが食べたい! 
そう思って今から百均でいかに美味しくシャーベットを手に入れるかを考えています。
メロン味とイチゴ味のシャーベットの素が、100円+税で売っているんですね!
作り方は水または牛乳を400CC混ぜて凍らせるだけ! そんなものすごく簡単なレシピなのですが。
牛乳で作るとビックリするくらい美味しいんですよ!
凍らせる時に可愛い星型の製氷皿で作ったりすると、子どもが喜びますね。
そう思って百均で買った星形の製氷皿でシャーベットを作ったところ……アレ? 取り出せない……。何故?
 
シャーベットが製氷皿にくっついて取り出せません。
やはり、ただの氷のように製氷皿の裏から水をかければ、ボコっと出てくるものではないのだろうか……。
「ならば、取り出しやすいシリコン製のものが発売されているはずだ!
百均は日々進化している。昔不便だったからといって、その問題をそのままにするような人たちじゃないのだ!」
 
そう思って再度百均に駆けつけると、ありました。
シリコン製の製氷皿が! 
なんと可愛いハート型のシャーベットが10個作れる仕様です。
「更に小さめのプラスチックフォークを刺して凍らせれば……持ち手のついたシャーベットになるはず!」
そう思ったらなんと! アイスの棒まで付いたシリコン製アイスメーカーが存在していたのです……!
シリコンだから柔らかいので、ちょっとしたはずみで中身をこぼす不安もありますが、入れる量を八分目にしておくとこぼさずに済みそうです。
ステンレスのトレー(これも百均)にそーっと載せて運べば、失敗が少なくて済みます。
 
シャーベット液を入れて冷蔵庫で冷やすこと3時間。
立派なアイスキャンディーになりました!
しかもアイスの棒はプラスチック製で、何度でも再利用できます。
シャーベットはお弁当用のシリコンカップで作ってもいいですね。
 
お弁当用のシリコンカップも近年、より薄く便利になりました。
大きさによって8枚入りや10枚入りが100円+税で売っているので、何度でも洗って使えるシリコンカップは経済的でお得です。
 
柔らかいシャーベットが食べたい時は、一時間ごとに冷凍庫から取り出してスプーンで塊をくずし、空気を含ませるように混ぜると美味しくできあがります。
 
シャーベットの素を使うと、子どもでも簡単にアイスが作れるのでよく近所の子ども達にも作らせています。
すると作っていた小4男子に「面白かった!」「またやろう!」と言われました。とても嬉しかったです。
 
※※※この画像(記事は)は、陸奥新報社提供です。無断転載はできません。※※※

 

魔法の百均 第5回「手に合ったお箸の選び方」

魔法の百均第5回「手に合ったお箸の選び方」
 
持ちやすい子どものお茶碗を探していたところ、最終的には百均で落ち着いてしまいました。
幼児向けではなくて、小学校低学年向けのお茶碗って、なかなかないのです。
たまたま百均で子ども用のお茶碗を持ってみたところ、陶器でも軽くできていて、「これだ!」と思ったんです。
百均で食器を選ぶ時は、重さに重点を置いています。
 
見た目が可愛くても、重いとなかなか扱いずらくて、出番がなくなってしまうものですから。
とにかく食器は買う前に何度も持って、イメージトレーニングをして、食事のシーンに合うかどうかを判断します。
値段ではないんです。
重さなんです!
 
百均には子ども用のメラミン樹脂で出来ている食器やプラスチックのお弁当箱が豊富にあるので、子育ての強い味方なのです。
何故百均の商品がこれほど安いのかを考えてみたところ、品質に大きな差があるというよりは、アニメの有名なキャラクターが使われているか、いないかにもよるのではないか? と思いました。
アニメのキャラクターが付いていたら、キャラクター使用料も込みの商品の値段ですから。
千円のお弁当箱と百円のお弁当箱の違いの多くは、デザイン料だと思うんですね。
 
私は色々と試すのが好きなので、百均のお弁当箱も津軽塗りのお弁当箱も両方試して、シーンに合わせて使っています。
例えば、子どもに年に3〜4回かしかない「お弁当の日」のお弁当箱を持たせるのなら、一番に考えるべきはお弁当箱のサイズだと思うんですよ。
そしてお花見などの風雅な雰囲気を楽しむなら、津軽塗りのお重が似合うと思うんです。
 
津軽塗りの夫婦箸って、必ず女性用が男性用より小さくできていて、女性の手に合った長さになっていますよね。
お箸のサイズの選び方は、右手の人差し指と親指を直角に広げ、親指と人差指の長さ(一咫というそうです)に、1・5をかけた長さが、自分の手に合った長さなんですって。
 
3〜4歳だと14・5センチ、5〜6歳だと16センチ、7〜9歳だと18センチのお箸が目安になります。
手の大きい子でしたら、一度計ってあげるといいですね。
 
これまで子どものお箸は一律、同じ長さで選んでいたのですが、6才児がなんとなく持ちずらそうだったので、「ひょっとすると、この子にとっては菜箸でご飯を食べるくらい、持ちにくいものなのかも?」と、そう思って百均でちょうどよいサイズの木のお箸を買ってあげたところ、気に入って使ってくれています。
 
子どもって小さい時は必ず箸の先をかじるので、しょっちゅう箸が悪くなるんですね。
なんでそんなに箸を噛じるのか。箸から甘い液でも出ているのかしら? しかし、7歳くらいになると自然と噛じらなくなるので、小さいうちは百均のお箸でも良いのかもしれません。
 
※※※この画像(記事は)は、陸奥新報社提供です。無断転載はできません。※※※

 

ダーリンはブッダ 第2回「仏教部」

イラスト/ナカエカナコ
 
ダーリンはブッダ 第2回「仏教部」
 
 私はその日、初めて冴馬のいる仏教部の部室を開けた。元が廃部になった写真部の部室だけあって、暗幕があちこちに張ってあり、暗い。しかも広さが8畳ぐらいしかないのに真ん中には理科室の大きなテーブルが置かれていた。
「それじゃ、部活始めようか。」
 そう言うと冴馬は黙って隅っこの方に行き、自然にあぐらをかいて座ると目を閉じて、瞑想に入ってしまった。
「ちょちょ、ちょっと! これが部活? これ、部活動なの?」
 冴馬は黙ったまま目を閉じて動かない。
「これって……か、活動して……ないんじゃない?」
 すると赤鬼のタカハシがドアを力いっぱい開けて入ってきて言った。
「女はギャーギャーうるさいのう」
「タ、タカハシ君。そういえばあなたも、仏教部なんだっけ……」
 タカハシは私を無視して言った。
「冴馬、うちの部活ってよ、瞑想の大会とかねえんだろ? 誰と争ってテッペン取ればいいんだよ? 寺とか襲ってテッペン取ればいいのかよ?」
 なんて物騒な発言を……。すると冴馬が瞑想状態からふっと笑みをこぼして言った。笑顔がまぶしすぎる。冴馬の笑顔には一切の邪気がない。
「争うのは、自分自身かな?」
 私は驚愕のまなざしで冴馬を見た。
(争うのはじぶんじしん……?)
 
「いや、訳わっかんね−! もっと俺にもわかるようにもの言えや! バーカ!」
 私は心の中でつぶやいた。お願い、私にもわかるような言葉で言って……。
「うーん、ええとね。人が、なんで苦しむかっていうと、自分があるからなんだよね。何故だか物心ついた頃から自分という存在があるように思っているでしょう? みんな。だから、自分が関わる全てのことに傷ついたり振り回されたりするんだよ。瞑想は、その自分というものを無くしていく行為なんだ。自分を無くしてしまわないと、この世界があらゆるエネルギーに満ちていていることに気づけない。悪いエネルギーを作り出すことすらしてしまう。自分がバイアスになるからね。瞑想はそのバイアスをなくして、世界をただあるがままに受け取る行為なんだ。どう? やってみない?」
(やっぱり訳がわからないわ……)
 不安に思っている私に気づいてか、冴馬は黙って立ち上がるとそばに寄って、私の肩に手を置いた。
「ええっ、ちょ、ちょっと!」
 冴馬の狂おしいような匂いが我慢できないぐらいに近づいて、私は息できなくなった。
「……ここに、足を楽にして座って、へその下三寸にある丹田に意識を集中させるんだ。そして、口から細く、糸を吐くように息を吐いて、鼻から吸う。口から細く息を吐いて、鼻から吸う。これを繰り返していれば、誰でも瞑想状態に入れるよ。」
 冴馬に肩を押されて座らされ、あぐらをかく格好になった私は、今……今世紀最大のひどい見た目になっていた。女子高生があぐらをかいて、大仏みたいに座るだなんて! 黙っていても顔が悲しみで般若のように歪んでしまう……。
「おい、おまえ大丈夫か? けっこうひどいぞ、顔。」
「う……うるさい。わかってるわよ、そんなの!」
「ところでよう、このままだとこの部、なくなるんだろう? 月末までに人入ってこないとよう」
 タカハシがポテトチップスの袋を開けてザーッと口の中に放り込み、モシャモシャとかみ砕きながら言った。狭い部室にポテトチップスの油の匂いが充満する。
「そうだね。」
「ええっ、なくなるの?」
「今月末までに5人の部員がそろわなかった場合、この部室は、おてもと研究会に明け渡すことになってる」
「おてもと研究会!?」
「何でも、箸袋を集める研究会だそうだよ」
「おいおい、そんな部活に取って替わられるのかよ?」
「今、おてもと研究会は4人集まっているらしい。今月末までにその人数を超えないとうちは部室を失うわけだけど、大丈夫だよ。雨の日は校庭の銀杏の木の下で瞑想すればいいだけの話だから。」
(そんなの、絶対にイヤ……!)
 
 それから冴馬は仏教部の看板の横に「新入部員募集」の張り紙を出したのだが、なんだかその張り紙が加わったせいでより一層仏教部の怪しさが増し、とほほな気分になった。
「ちょっとヒカルー! あんた仏教部に入ったって噂だけど、本当なの?」
 夏樹が来て言った。
「いや、入ってない……」 
 とっさに嘘をついてしまう。
「あそこの部室にあんたそっくりな人が入っていくのを見たって子がいるんだけどさ、絶対やめといた方がいいよ! 人生台無しになるよ!」
(そこまで、言う!?)
 
 冴馬は教室の一番後ろの席で、瞑想している……。誰も冴馬の匂いを嗅いで狂いたくないのか、基本的に休み時間になると半径5メートル以内に人は近づかない。授業が始まるとやむなく周りに座るが、周りにいる全員が泣きながら身もだえているのは、やっぱり冴馬の匂いが特別なせいなんだろう。
 授業中も瞑想し続けている冴馬に近づいて注意しようとした英語の堀江先生は、ハイヒールでツカツカと近づくと2メートル圏内に入った途端、急に泣き出して1メートル圏内に入って今度は逆方向に走り出し、叫びながら自宅に帰ってしまった。しかもそのまま教師を辞めてしまったので、先生方とはいえ鼻をつままずに冴馬に近づく人間はいなくなった。冴馬の匂いを嗅ぐと、切ないのと懐かしいのが入り交じって入ってくる。そして、忘れていた過去の小さな思い出を、急に思い出すのだ。
 
 休み時間があと2分で終わるという頃、冴馬はカッと目を見開いて立ち上がった。そして、クラスで休み時間はいつも突っ伏して寝たふりをしている、拒食症の細江咲子……通称・ガリ子の前まで進んで行き目の前で微笑むと、こう言った。
「細江さん……仏教部に入りませんか?」
 と。私は目を皿にして驚いた。
(部員って、誰でもいいの? 私に声をかけてくれたのは、私が特別だったんじゃなかったの? よりによって、なんでガリ子なの?)
 言われた瞬間にガリ子は貧血で倒れて保健委員に連れていかれた。クラスが騒然となっている。ガリ子はよく倒れるけど、あんなガリガリじゃ鉄分だってなんだって不足しているんだろう。
 ガリ子は昼休みにはお弁当を広げているけど、食べてる姿は見たことがない。ただ広げているだけ。足はかわいそうなほど細い。飢餓に苦しんでる国の子供の細さレベルだ。体重が30キロしかないって噂だけど、本当のことかもしれない。骨しかない足をまるで自慢するかのように、短くした制服の裾から見せている。そんなガリ子の存在をいつしか私たちは無視することで心の平安を保ってきた。ガリ子を見るのはつらいのだ。
 それにガリ子には愛想がない。髪は茶髪のストレートでギャル風に見えるのに、いつも突っ伏して一日が終わるのを待っている。ヤバイ……あたし、嫉妬している。さっきからずっと、胸が痛い。ガリ子なんていなくなれって思ってる。あたし、昨日までこんなんじゃなかったのに……。
 
 放課後、保健室に行くとガリ子はまだベッドで寝ていた。
「あのさあ、私、真光っていうの。細江さん、同じクラスだけど話すの初めてだよね。」
「真さん……なら、私知ってる。あなた、クラスの中じゃ意地悪な目で私を見ないから。」
「そうかな……けっこう私、意地が悪いみたいだよ?」
「ううん。あなたの視線は、困っているの。なんか、私をどうにかしようとして、どうにもならないのを知っている目。私、どうにもならないの。実は私……拒食症なの」
(そんなの見ればわかるって……)
「なんか、カロリーのあるものを見ると吐き気がするの……キュウリとリンゴ以外は食べられないの。カロリーのあるものは野菜ジュースか、豆乳ぐらいしか飲めないの。カルシウムが足りなくてすぐ骨折するし、生理はずっと止まってるからこのままじゃダメだってわかってるんだけど……。なんか、本当に栄養があるものがこわいのよ。」
「こわいって、何で?」
「ふとるから。」
 
 それは、太った方がいいんじゃないかなあと私は思った。だって、今言った症状って、やせているから起こってる症状なわけで。栄養があるものを食べれば問題なくなるじゃない? あるのに食べないっていうのは、ただの、わがままなんじゃないかなあ……。
 そう思ってたところに冴馬が突然、現れた。
「真さんも、来てくれてたんだ。」
「さ……冴馬!」
「真さんもガリ子さんのこと、気になっていたんでしょう? 僕も転入してから、一番気になる人だと思っていたんだ。でも、何故気になるのかはわからなかった。だけど、部活に危機が訪れてわかったんだ。気になるってことは、友達になりたいからなんだって……」
 
(ち、違うよ、こんなに痩せている人は珍しいし、世の中にはそういないからよ!)
ガリ子は驚いて上体を起こし、よろめいた。
「剛玉君、よね……私、私なんかが部活って、できるのかしら? 走るとけっこうな確率で骨折しちゃうから、体育はいつもお休みさせてもらってるし、通学はママのお迎えがないとやっていけないし、カロリーの高い食べ物見ると、吐いちゃうかもしれないのよ」
「大丈夫。座禅するだけの簡単な部活だから」
「って、冴馬! キャッチセールスみたいに誘うもんじゃないわよ! それにガリ子はあだ名であって、本名じゃないのよ! 本人の前で呼んじゃダメ!」
「あ、そうなんだ。」
「………。」
「………そ、そういえば、細江さんって冴馬の匂い……大丈夫なの? みんな、マスクなしで冴馬の匂いを嗅ぐと倒れちゃうんだけど」
「あ、それなら私、もう匂いとか感じなくなってきているから大丈夫。やっぱり体力ないから感染症にかかりやすくって、いつも鼻が詰まってるの」
「そういえばタカハシ君も蓄膿症だって言ってたよ。仲間だね。」
冴馬が言った。
(鼻が悪ければ問題ないんだ……)
 
 私は、自分の鼻の良さを少し呪った。自分だけ、こんなに冴馬が好きだなんて……損をしている気分になる……冴馬は私のことなんか、ほんの少しも思ってないのに……。
「ガリ子さん、君は仏教の素質があると思うよ。インドでは苦しい修行に耐えて断食をして、生きたまま結跏趺坐して死んでいった高僧もいるし、シッタールダだって最初は苦行をしたんだ。シッタールダはその後にゆき過ぎた修行を禁じたけど、苦行が無駄だと知る上では、やる価値はあったと思うんだ。断食ができれば食糧難になっても生き抜くことができるし」
「あ、ありがとう……。だけど私、点滴がないと死んじゃうかも。点滴されると太るからイヤなんだけど、お医者さんが点滴打たなきゃ死ぬっていうの。ほら……」
 ブラウスの袖をめくったガリ子の腕には、痛々しい点滴の後が赤紫色になって浮かんでいた。たくさん、点滴の跡がある。どうして、こんなにまでしてガリ子は食べないんだろう? それに、その痛々しい腕を見せるガリ子が、なんだか得意げに見えてしまう。私の半分の細さしかない可哀相な腕……。すると、冴馬が言った。
「ガリ子さんの体重って、何キロぐらい?」
「……28キロ」
(28キロ……!? そんなで、生きていられるの……?)
「君はね、本当はもう死んでいてもおかしくないぐらい痩せているんだ。だけど、生きている。どうしてだかわかる?」
 
 ガリ子は驚いて、目を丸くして言った。
「そんなの……わからないわ。」
「……それはね、君の生命エネルギーが、半端なくあるからだよ。もう死んでいてもおかしくない肉体を動かすだけの生命力があるんだ。クラスの中では誰よりも生きる力に満ちて、君の細胞は必死に死との闘いに明け暮れている。君が食べなくても君の身体は生きようとしている。緑色の鼻水は、闘って死んだ白血球の死骸だよ。」
「私……闘っているのね。」
「そう、闘っているんだ。」 
 ガリ子は、何故だか目に涙を浮かべて言った。
「……私、死んでいく自分が好きなの。細くて、美しいから。だけど、死にたくないの。生きていたいの。脂肪がないから、夏でも指先が寒くてシモヤケになっちゃうんだけど、その震える自分の指が好きなの。だから、それをずっと見ていたい……。」
 ぽたっと、ガリ子の目から涙がこぼれた。
 
(ああ、この子は、死にたいんじゃなくて、生きたいんだなあ……って思った。
 
 私は、クラスの中じゃ浮かないようにいつでも昨日のテレビの話題を声高に話しているけれど、こういう話を友達としたことって、なかった気がする。
 浮くのが恐かったから。
 夏樹もずっと一緒にいたけど、一番好きなものについてとか、死にたいと思ったことや生きたいと思ったことなんて、話さなかった。話して嫌われるのが恐かった。私が、思ったことの全部を話せなくて寂しかったことを、夏樹は知っていただろうか。
 
 帰り道、ガリ子が迎えの車にヨタヨタと歩いてゆくのを、私は冴馬と一緒に見送った。にこやかに手を振る冴馬の手には、ガリ子の書いた入部届が握られている。……あの状況で、入部届を出して書かせるなんて、本当は冴馬って恐ろしい人なんじゃないかって思う。
 
 ただ、今日はガリ子のあのヨタヨタ歩きが、すごく一生懸命なものに見える。どうしてだろう……ほんの少しの時間しか、話さなかったのに。
(なんだか、鳥の雛みたい……)
 
 すると冴馬が、にこりと笑って言った。
「真さん、部室に戻って瞑想しようか?」
「め、瞑想するの? そういえば、ガリ子もう帰っちゃったけど、いいの?」
「彼女は体力的に、タイムアウトだったから。これ以上は起きてるのしんどいよ、きっと。」
 女性バスケ部の練習する声が遠くから響いている。野球部の白球をバットで打つ音。私たちは、まるでずっと昔から友達だったみたいに一緒に歩いて部室に向かった。廊下を歩く音がすとんすとんと私の中に入っていった。
 
(いつか、冴馬と、ガリ子と、タカハシと一緒に……学校裏の店の鯛焼きを食べたいな……。ガリ子にはまだ無理かもしれないけど、あそこの鯛焼きは薄皮がカリカリしていて、あんがいつでも最高なんだ。ガリ子もあんこ一粒なら、食べてくれるかもしれない。)
 そんなことを考えながら私は、冴馬の後ろ姿に揺れる黒髪をを見つめ、歩き続けた。
 
つづく
 
 

 

 

ダーリンはブッダ 第1回「恋の悪魔」

イラスト / ナカエカナコ
 
山田スイッチ初の長編小説! 
仏教系学園ラブコメディー「ダーリンはブッダ」
 
〜あらすじ 〜
 
ヒカル(真光 まことひかる)の学校にボロ布1枚をまとって現れた転校生の冴馬(剛玉冴馬 ごうたまさえま)は学園一のヤンキーであるタカハシと供に「仏教部」という仏教の部活動を始める。美しくあってもボロ布1枚で人目を引く冴馬はヤンキーの巣窟・北高の伝統である「締め上げ週間」の対象にされてしまう。そうとは知らずに仏教部の存続のために拒食症のガリ子(細木咲子 ほそきさえこ)や過食症のデブ子(大山裕子 おおやまゆうこ)を仏教部に引っ張りこんだヒカルは、冴馬をおびき寄せる罠として北高のヤンキーにさらわれてしまう。果たして、冴馬は説法一つで北高の100人を超えるヤンキーたちを倒すことができるのか? むせ返る青さの、青春小説!!
 
ダーリンはブッダ / 山田スイッチ                                                                                    
第1回「恋の悪魔」
 
 恋って一体、どういうものなの? 
 もしそれが、胸の鼓動が早くなったりその人のことをどうしても見つめてしまうことなら、うちの学校の生徒は誰も彼もが彼に恋をしていることになってしまう。私だって胸が痛い。痛いし、目が離せない。だけどそれが、恋によるものなのか、彼の……冴馬の、あまりに変わった見た目によるものなのかはわからない。
 県立高校で誰もが皆、紺色のブレザーを着て記号みたいになっているところに、彼は……剛玉冴馬は、まるで理科室のカーテンのようなボロ布一枚を身にまとって、やって来た。
 転校生が注文したブレザーが間に合わなくて、ジャージで登校するのはよくある話なんだけど。ボロ布一枚をまとって来るっていうのは学校以外でも、どんな実社会でもあり得ないことだと思う。インド人だって今時、ユニクロの服を着ていると思うわ。だけど、飛んできて注意しようとした先生、数人を冴馬は静かに見つめて、教化してしまった。たしか、冴馬が言ったのはこんなことだったと思う。
 「私たちは目があるせいで、見えるものに振り回されて、その本質を見ることができないでいますね、先生方。あなた方は、服装というものに振り回されても、生徒達の本質をきちんと見れていますか? そして自分の心をどこかに置き去りにしていませんか?」
「こ……心!?」
 これは、近くにいた生徒がまるで伝説的に語ったことだけど、その日あった出来事は学校中に広まって、私の耳にまで届いてきた。その日から、冴馬は全校生徒に「ブッダ」と呼ばれるようになったのだ。
 名字も剛玉だから、インドで2500年前に悟りを開いた、ゴータマ・シッダールタの生まれ変わりだなんだと噂されるようになった彼は、突然現れたにも関わらず、転校初日で全校生徒に知られる存在になった。
 インド人のようにボロ布一枚をきれいに纏い、こっちが悲しくなるくらい美しい顔を持っている。長い髪は漆黒と呼べるくらいに黒く、最近の茶髪か金髪に染めた男子達に比べて、どうしようもなく大人びて見える。それに嫌になるほど、目が澄んでいる。動物の目みたいに茶色くて、光を帯びて透き通った目。そんな目で見られたら、私なんかは自分の中のどろどろが見破られそうで、嫌になる。なのに、遠くからいつまでも見つめていたいと思ってしまう。だけど、彼のそばに寄るのは危険過ぎる行為なんだわ。私は彼に近づくのが、恐い。
 冴馬は、今までに嗅いだことのないようなヒトの匂いがしていた。冴馬がいると、あまりにも懐かしいようなヒトの匂いがして、嗅いでしまうと何かが狂ってしまいそうになる。何か、忘れていた風景を思い出させるような冴馬の匂いは、先生方が冴馬に「制服を着ろ」と言えない雰囲気を作ってしまう。熱烈に恋しいという気持ちにさせてしまう。そんな彼のことだから、本当は女にも男にもモテるんだろうけども、この学校ではまだ、彼に声をかけることができた人間はいない。かける前にまず、普通の服を着ていないというハードルがあるし、近づくとどうにもならないような気持ちになるあの匂いがあるし、そう思って誰も声をかけられずにいたら、彼は……あの忌々しい看板を手に持って、この学校になかった新しい部活動を立ち上げてしまったのだ。
 それが、うちの高校が一時期google検索で七位にまでなった、「仏教部」の看板だった……。
 
「ヒカル! アンタまたブッダくんのこと見てるの? よしなって! 5秒以上見ると目がつぶれるって摩耶が言ってたわよ!」
 また冴馬に関する新しい伝説が生まれていた……。摩耶は校内一噂好きな女子だ。目がつぶれるって、そんなことを言われた高校生が今までに存在しただろうか。
「夏樹……冴馬ってさ、あの仏教部の部室の中で一体、何してるのかな? 授業が終わると大概、あの中で静かにしているじゃない? 昼休みも黙って部室に行っちゃうし。そういえば、冴馬がお昼食べているところ見たことないや。」
 声をかけて来たのは渡辺夏樹。私の十年来の友人。小学校から一緒で高校でも同じクラスになった。夏樹には春樹という姉がいる。春生まれの姉、夏生まれの妹。そして冬生まれの弟がいる。もちろん、弟の名前は冬樹だ。
「いや、なんか噂じゃ瞑想とかしているらしいよ? 座禅組んで黙って座ってるって。この間、7組の女子がブッダ君恋しさにとうとうあの仏教部の部室を開けたんだって。で、そこで瞑想しているブッダ君と目が合って……、卒倒して保健室に運ばれたって話だよ。」
「すごいね……。あの部室、開けたんだ。」
 仏教部というものを冴馬が始めた日、うちの高校の誰もがTwitterで冗談のような本当の話としてうちの学校に仏教部という部活があるとつぶやいた。仏教部の看板を画像で載せる生徒もいた。その十数人のつぶやきは、一気に日本中の注目を浴びる結果となり、yahho! ニュースにも見出しがつけられて、冴馬は驚くべき変人として取り上げられた。
 だけど、冴馬自身がインターネットというものをまるで使わない人間だったためか、世間の盛り上がりも2ちゃんねるでの騒がれようも全然気にすることなく彼だけが平穏な生活を送り、周りにいる……そう、ただいるだけの私たち。同じ学校だというだけの私たちが、ネット上に溢れる我が校の汚点、仏教部という文字が躍るのに振り回された。そして、ある朝怒りは沸点を迎えた。
「おまえ、2ちゃんでうちの学校、騒がれてんだぞ? あのふざけた看板、降ろせや!」
 冴馬に食ってかかったのは、身長190センチはある赤髪リーゼントのヤンキー、タカハシだ。タカハシはヤンキーらしくシャツと靴下の色が赤い。髪も赤いし、赤鬼みたいだ。うちの学校には珍しいヤンキーで、タカハシは賢すぎるヤンキーとして有名だ。何せ、受験会場に剃り込みを入れたまま180度の角度で足を開脚してパイプ椅子にふんぞり返ったタカハシは、志望動機を言う前に私立の受験を面接で落とされ、その腹いせに受験校の窓ガラスを頭突きで6枚割ったと言われている……。
 その場に居合わせた中学の担任が「事故」で片付けたから公立を受験できたとも言われているけど、うちの学校は県内一の進学校で、言ってしまえば頭さえ良ければ誰でも入れる学校なのだ。それ故にちょっと、変わった人が多い。だけど冴馬は、冴馬だけは別格だと思う。
 タカハシはズボンからはみ出たチェーンをじゃらじゃらいわせている。何かあったらあのチェーンで冴馬にかかっていきそうだ。だけど、冴馬はにっこり笑って言ったのだ。
「高橋君……ですね。人は、そんなに人に夢中になれるものではありません。一度に熱くなって、時が来れば必ず冷める。そういう性質を持った者達に振り回されてはいけません。2ヶ月間黙って見ている価値はあると思います。どれだけ、この世で起こる事象が移り変わりやすいものなのか、たったの2ヶ月でわかります。その2ヶ月を、僕に賭けてみませんか?」
 正面切ってものを言われて、タカハシは何のことだかわからずうろたえていたけど、ヤンキーのタカハシは「賭け」と言われたら乗るか反るかしか考えないみたいだった。そしてどういうわけか、タカハシはまんまと冴馬に丸め込まれて何故か、自分がその仏教部に入ってしまったのである。
 ヤンキーのタカハシが部活動を始めたという噂は、全校生徒の知るところになった。しかもあの仏教部……。
「あの部活って、入部できたんだ……」
 そう誰かがつぶやいた。それぐらい、部活という爽やかな言葉とは縁遠い、まがまがしいオーラを仏教部の看板は放っていた。しかも昼時になると冴馬とヤンキーのタカハシが黙ってその部室に消えていき、タカハシの怒鳴り声が響き、その数分後にシーンとした静寂が訪れることを誰もが知った今、あの部室で一体何が行われているかは全校生徒の関心の的であり、また恐怖の的でもあった。
「ヒカルはさあ、この高校生活をまともなものに過ごそうと思ったらさ、どう考えてもブッダ君には関わらない方がいいと思うよ。あんた、名字だってマコトだし、真光って名前で小学校の頃、いじめられてたじゃん? マヒカリ様〜って。」
「そんな思い出したくない過去をよく言うよね……。確かにうちの親のネーミングセンスは疑うけど、冴馬のことは、たぶん。みんなが気になってるわけじゃない? 嫌がってるけど気にしてる。だとしたら、私は特別じゃないわけよ。私は、一般人ってわけよ。永遠に見つめるだけで終わる一般人よ。胸は痛いけど、恋じゃないし。あの部室を開ける勇気は、私にはないもの。」
「ああ〜、なんかこの間より深刻化してる。ヤバイよ、それ。もう恋だよ。深刻になるのは恋だよ。よりによってあんなヤツなの? ヒカルの趣味って、本当に昔っから変わってたもんね……」
 すると教室の後ろのドアを開けてサッカー部の男子が「夏樹!」と大声で呼んだ。
「あ、今行く!」
 夏樹は慌ててバッグに机のものをぶち込むと、
「それじゃあ私、部活の洗濯あるから、もう行くわ!」
 と、大きく手を振って急いで教室から出て行った……。
 夏樹は、入学してすぐにサッカー部の女子マネージャーになった。一緒にやろうと言われたけど、私はサッカー部に興味が持てなかった。青春して、キラキラしているのがなんだかついていけなかった。女子マネになって夏樹は、すぐにさっきの男子と仲良くなって、もう私のことなど視界に入っていない。小学校からずっと一緒にいた無二の友人だと思っていたのに、なんだろうこの、急な喪失感。夏樹を取られて、夏樹は新しい生活を謳歌していて、もう私のことは過去になってしまっている。ほんの数ヶ月前まで夏樹の隣にいるのは私だったのに。
 こんな私の、普通の喪失感に満ちた毎日。きっとみんな、言葉には出さないけど、毎日の生活で微妙な喪失感やアンニュイを感じているわけで、魂の元気はどんどん抜けて、授業中のあの、重苦しい空気を生んでしまうんだわ……。
 気のせいかいつもより重い鞄を持って、玄関に向かう。秋の校舎は金木犀のむせっかえる匂いがする。空から降ってくるような金色の花の香り。私はきっと、鼻がいい。鼻がいいから、冴馬の匂いを無視できないんだな……そう思っていると、校舎を出てすぐに金木犀の匂いに交じって冴馬の強烈な匂いが風に乗って漂ってきた。
「えっ、嘘!」
 だけど視界に冴馬はいない。私は、自慢じゃないけど鼻だけはすごくいい。匂いを外したことはない。匂いだけでどこの家が今日、何の夕飯を作っているかわかるし、香水の匂いを追って電車の車両を当て、母親に忘れ物のお弁当を届けたこともある。母は、今時の人が使わないメモアールっていう資生堂の香水を何十年も使っているから、匂いで見つけやすいのだ。
 大急ぎで靴を履くと、私は冴馬の匂いに集中した。懐かしく、大陸的な、肌の匂い。この匂いには化学的な香りが一切、交じっていない。普通の人はシャンプーとかリンスやボディシャンプーの匂いがするんだけど、冴馬からは本当に、人の匂いしかしないんだ。
「……そこ!」
 私はあり得ないことに匂いだけを頼りに中庭まで走り、植え込みに顔を突っ込んだ。すると、冴馬が頬から血を流して倒れていた。
「ななな、何で?」
 近づくと冴馬は顔をしかめて、小さく呻いた。頬の傷から血がにじんでいる。そして言った。
「……高橋君……は?」
「タカハシ? ヤンキーのタカハシ? もしかしてタカハシにやられたの?」
 私は慌てて冴馬の顔を抱きかかえた。あっ、今私、冴馬の顔に触れてる……。途端に顔がカーッと赤くなる。冴馬の体温が伝わってくる。どうしよう。心臓はドックンドックン言ってるし、このままじゃ冴馬に聞かれてしまう。冴馬はゆっくりと上体を起こすと、ふらつく頭を押さえながら言った。
「違う……高橋君が、連れ去られたんだ。よその学校のヤツに……追いかけなきゃ」
「お、追いかけてどうするの?」
「たぶん、連れ去ったのは北校の人たちだから……返してもらいにいかなきゃ。君は、友人が不良に連れ去られた時に家でのんびりテレビを見られる方?」
 好きな人との初めての会話が、こんなに自分を問われるもの?
「の……のんびりテレビは見ないと思うけど、北校に行くなんて、無理よ! あの学校は先生以外は全員、ヤンキーなんだから!」
 北校は不良の殿堂で、全校生徒の8割がリーゼントで改造バイクで通学するような男子ばかりの学校だった。4年前に共学になったけど、女子は入ったら即、犯されるという噂でただの一人も入学していない。タカハシはうちの不良だけど、北校の連中に比べたら力が強いだけで、全然邪悪さが足りない。なんていうか、邪悪さっていうのは卑怯だけど絶対的な勝ちを取りに行くものだから。タカハシには悪いけど、彼はボコボコにされて終わるだろう。北校の連中は、素手でケンカなんかしないって噂だもの。
 冴馬はフラフラと立ち上がって目に強い光を灯すと、歩き出した。
「ちょっと待って!」
 言ってからびっくりした。私、冴馬に話をしている。
「い……行くんなら、私の自転車に乗って行きなさいよ。私、こう見えても真道場の娘だから、脚力あるわよ!」
 すると冴馬は、しばらく考えてからこう言った。
「じゃあ、力を貸して下さい。北校の門の所まで……」
  
 冴馬が私の後ろにいる。あの、遠かった冴馬が今、私の肩につかまって私の自転車に乗っている……。どうしよう、体温が伝わってくる……。冴馬の匂いは、嗅いでしまうと恋しくてどうにもならなくなるので私は、息を吸わないように相当、気を遣っていた。ペダルを漕ぐ足はどうしてか力強く進んだ。
「なんでこんなに親切にしてくれるんですか?」
 冴馬が言った。
「の、乗りかかった船だからよ!」
 違うの、本当はあなたが好きなの。ああ、これで向かっていく先が、北校じゃなかったらどんなに素晴らしいだろう。北校は、近づくにつれて周りのブロック塀のスプレーの落書きがひどくなっていく。あちこちに「死ね」とか、「殺す」とか、そうでなければどうしようもない卑猥な落書きが続いていて、せっかくの好きな人との二人乗りが、台無しになっていくのを感じた。
「おネーさん、西の制服着てどこ行くの? 後ろにいるの、坊さん? 何それ? コスプレの人?」
 後ろから声が聞こえた。ヤバイ。もう、北校の陣地に入ってしまっているんだ。私はブレーキをかけて、後ろにいた人に答えた。
「あの、うちの学校のタカハシ君ってヤンキー知りませんか? 今日、北校の方々に、連れ去られたみたいなんです。タカハシ君は不良ですけど、あまり、連れ去る価値のある不良でもないと思うんです。だから、返して下さい!」
「ああ、高橋〜! 今週の締め上げ週間に写真載ってた、西校の子ね。もう遅いよ。河川敷に行ってみな。たぶん、血だらけになってるよ。」
「河川敷……! わ、わかりました! ありがとうございます!」
 私は勢いで自転車の方向を変え、河川敷に向かう。今の人、北校の生徒の割には、まともな人だったと思う。髪の毛サラサラだったし。それにしても「締め上げ週間」って何? それに載ると締められちゃうわけ? これだから北校は恐いのよ。ペダルを漕ぎ出すと遠くから携帯のシャッター音が聞こえた気がした。あれ、と思ったけど、自転車のペダルを漕ぐのに夢中で、それどころじゃなかった。
「……退屈しか感じない学校生活に、少しでも光を感じたい人が、間違って暴力に上昇志向を見いだしてしまうんだ。暴力は、上昇志向なんだよ。だけど間違った方向なんだ。」
 冴馬が言った。ああ、私、冴馬の声を聞いている。なんて、優しい声をするんだろう。静かで、落ち着いた、よく通る声。
「た……タカハシ君、もうやられているかもしれないわよ? 今から助けに行っても、遅いんじゃない?」
「大丈夫。暴力っていうのは、力によるものでしょう? 受けた瞬間に、ゼロになるように自分が動けば、ダメージは最小限に抑えられる。高橋君は大丈夫だよ。」
 冴馬が何を言ってるんだか、私にはさっぱりわからなかったけど私はその声を間近に聞けるだけで十分幸せだった。
 駆けつけた時、タカハシは河川敷の河原石の上に血だらけになって倒れていた。鼻血が顔面を汚している。私は無意識で女子らしく「キャー!」と叫んでしまった。倒れたタカハシを見て冴馬は静かに歩み寄り、彼の顔を両の手で包みながらこう言った。
「大丈夫。血は、表面上の問題だよ。血を流すというのはひとときのことだよ。いずれ止まって皮膚は再生する。それよりこの見事なやられっぷりは、高橋君。僕との約束を守ったくれたんだね。」
「約束?」
「卒業したら、非暴力団に入るってゆう約束。」
 ひ、非暴力って……! 私は心の中で「ガンジーですか!」とツッコミを入れた。
「暴力で昇りつめれば、いずれ暴力団に入るでしょう? だけど非暴力で昇りつめれば、いずれガンジーみたいになる。本当はね、非暴力の方が暴力的で熱いんだよ。」
「イテエ……なんか、お前と話していたら、ケンカすんのバカらしくなってよお。イテテ。なんつうの? 究極の上から目線だな。相手のクソが何言っても気にならねえから、殴る気にもなりゃしねえ。そのせいか今日は本当に、相手の動きがスローモーに見えちまってよお。それに合わせて飛んだり跳ねたり、転がってたら気持ちよくなってきたな……おう、冴馬これ、なんだこの女?」
「あ、親切な人……。ここまで送ってくれたんだ。」
 私は心臓がぎゅうっと締め付けられるように痛くなった。
(し……親切な人……だよね。)
 私は泣きたくなった。私の今日一日のドキドキの、ドの字も冴馬が受け止めてくれなかったのだ……。私は、「親切な人」なの? それより、自転車を漕ぎすぎてのどが渇いた。足首もガタガタだし手首も痛い。もう川の水でも何でもいいから飲んでしまいたい。もう、何もかも投げ出して帰りたい……そう思ってた時に冴馬が言った。
「君、良かったら、うちの部活に入らない? ねえ、入ればいいと思うよ。」
 なんて、単刀直入で鈍感な誘い文句だろうと思いながら、彼の白くてぼろい袈裟が夕陽のオレンジ色に染められ、冴馬の後ろを流れる川面が光に反射してびっくりするほどきれいになっているのを見ているうちに勝手に口が動いていた。
「入ります。」
「名前、なんていうの?」
「ヒカル。真光……」
 って……ああ、私、あの部活に入っちゃうんだ。テニス部とかじゃなくて、仏教部なのに、部員になっちゃうんだ。今日一日にあったことは全部、本当なのかな−……と思った。
 帰りは夕暮れの中、傷だらけのタカハシと冴馬と、自転車を押しながら歩いて帰った。冴馬の匂いは、私の脳みその大事な部分を壊していきそうで恐かったけど、あの懐かしい、お日様を浴びた布団の匂いを、私は思い出していた。

ダーリンはブッダ 目次へ