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心細さと心太さ。

習性として、年に一度は江川達也の『東京大学物語』全34巻を

読み直して、号泣しているドグ子ドグ。



東京大学物語 全34巻完結 [マーケットプレイス コミックセット]

 

これはもう、現代の源氏物語ドグね。

本当のことしか書かれてないと思うんだドグ。

マンガ(フィクション)ドグけどね。(*´ω`)



心細さの反対って、

心が太くなってる状態だと思うんだドグ。




心って、しょっちゅう太ったり痩せたりするの。



痩せてる時はどんな食べ物だって感謝して

食べられる。

太ってくると、美味しいものじゃなきゃ食べなくなる。

「もっと美味しいものを」と、要求し始める。



そういうことが、江川達也の『東京大学物語』には

書かれているんだドグ。



ほとんどの登場人物が、

この心細さと心太さに翻弄され、

気持ちが太ったり痩せたりを繰り返すドグ。

「それが人間」と、江川達也は別作品で語っているドグ。



ところで、西原さんと高須克也両氏のエッセイ本

『ダーリンは71歳 高須帝国より愛を込めて』もかっちゃんのエッセイとかマジうまくて面白いんだドグけど

ダーリンは71歳・高須帝国より愛をこめて (コミックス単行本)





西原さんの『ダーリンは71歳』で、

朝に出たモーニングの残りをせっせとおにぎりにして、

ビニール袋を忘れた西原さんがシャワーキャップにおにぎり入れて

公園で食べるのとか見ると、泣けちゃう。

ダーリンは71歳 (コミックス単行本)



「大好きな人と食べると、残り物がすごくおいしいよ。」

 

2016年 面白かった漫画個人的ベスト5

1位 『ダーリンは70歳』西原理恵子



西原さんの新境地は、ひたすら面白いギャグマンガ!!

高須院長という強大なネタを引っ提げて、

暴れまくる西原さんの「やらせろー!!」が

本当にもう、勢いあっていいんだドグ~!

本当に、笑えるドグ。



今回、順位で本当に悩んだんだドグけど、

死ぬまでにあと何回読むかの回数で決めることにしましたドグ。

1位、2位は、本当は入れ替えてもいいんだドグけど

この漫画はずっと読んで、笑っていると思うドグ~!





2位 ペコロスの母の贈り物 岡野雄一



『ペコロスの母に会いに』の岡野雄一さんが

描いたペコロスの続編。

長崎の方言が描く、映画のようなお話。



映画のようなコマ割り。抒情。ボケても幸せに

現世と空想の世界を行ったり来たりする世界観は、

もはや漫画ですらない気がするドグ。

コレ、絶対お勧めドグ~!!





3位 『進撃の巨人』20巻 諫山創 

続きが気になる漫画。

異形のもの、その出生、どこから来て何を企んでいるのか

真実は何なのか。

20巻も21巻もすごいYO!

ずっと面白くハラハラしてる漫画は珍しいドグ。





4位 『ぼのぼの』41巻 いがらしみきお

中学校からずっと読み続けてきたぼのぼのに、

とうとうお母さんが出て来たんだドグ。

ぼのぼの出生の謎、なぜいつもお父さんと一緒なのか。

そして、悲しみとは一体何なのか。



「悲しみは病気だ。」

これは、福島県に今も在住するいがらし先生の一つの悟りだと

思うんだドグ。いがらし先生はぼのぼのの他にもめちゃくちゃ

ディープでヤバい『I』全三巻とか『かむろば村へ』上下とか書いていて、

本当に人生の実相を探っている方だと思いますドグ。

41巻を読んでいて驚くのは、生きることでしか悲しみは消せないということを、

読者も夢中になって読んでいるうちに最初の悲しみを

忘れてしまうというところなんだドグ。

こんなに、すごい話だっけか……? そんな『ぼのぼの』をぜひ。







5位『トネガワ』4巻 萩原天晴 (著), 福本伸行 (著), 橋本智広 (著), 三好智樹 (著)

悪魔的面白さ……。

この表紙見たらわかるドグよね!?

なんて楽しそう……。

2巻のセリフで、「トネガワ、お前ヨガについてどう思う?」

っていう兵藤会長のセリフがあるんだドグけど、

本当になんか、兵藤会長がだんだん可愛くなるドグよ。

そして四巻も感想は「かわいい」なんだドグ。

『カイジ』を読んだ誰もが、「かわいい」という感情を持つ日が訪れるとは、

思わなかったはずドグ~☆



振り返って。



2016年も、漫画は面白かった……。

H×Hにハマって全巻読んだドグけど、

2016年発売は33巻のみっていうことで

今回はこんな感じドグ☆

ふおお~!

 

Kindle Unlimitedいいよ

おはようドグ~!
Kindle Unlimitedが、今なら初月無料で月額980円でKindle Unlimitedの無料になってる本
10冊読み放題なんだドグ。
(ライブラリに置ける本が10冊。本を入れ替えればもっと読める)

 

これに入ろうと決めたのは、絶版になった
西原理恵子さんの『ダーリンは70歳 高須帝国の逆襲』
がKindle Unlimitedで読めたから!

ダーリンは70歳/高須帝国の逆襲

後からアマゾンマーケットプレイスで
高値で出るだろうなあって思ってたんだドグけど、
もう1冊2500円とかなのね。
それなのに、何故かキンドルで500円で読めることになってたんだドグ!

 

これならここで読んだ方がいいドグ~!
ってんで、
読んでみたら、高須クリニックの克っちゃんのエッセイに
西原さんの一コマ漫画の編成で、
最後に西原さんのマンガが9ページぐらいついてるんだドグけど

やっぱりすごくいいんだドグね。

 

絶版になった箇所って、
「ああ、これは克っちゃんなら変えられないところだな」
ぐらいに思う感じで、おばあちゃんが「エタの子は可愛い」って
そう言ったなら、
それは変えられないよなあって感じだったドグ。

 

そんで、普通にエッセイうまいのね。
高須側から見た西原さんも、なかなかに
面白い。
西原さんの失敗談で、本人が書きたくないようなものばかり
書いてるんだドグ!

 

それで、ポルポル様の本もKindle Unlimitedでいっぱい
タダで買えたのでまとめ買いして、

ママチャリに乗って日本一周!大魔王ポルポルの365日の軌跡と征服Part1死ぬまでに見ろ!日本の絶境、秘境、魔鏡Part3 ママチャリに乗って日本一周!大魔王ポルポルの365日の軌跡と征服
あと困ったのが無料で流れてくる本がね、
どれも面白いんだドグ……。

 

 

『最強伝説 新・黒沢』福本伸行とか。

 

2巻までただとか、ひどいドグ。
全部タダにしてくれドグ。

おかげでコミックで全巻買ってしまったドグ……。(*´Д`)

 

面白い本がどんどん紹介されて、
続きは有料で! って仕組みにまんまとハメられてるんだドグけど、
もうね、そんなに面白い本紹介してくれるんなら
ドグ子、騙されてもいいって思ったドグよ。

 

 

ダーリンはブッダ 最終回 神様の言う通り

イラスト/ナカエカナコ             
ダーリンはブッダ 最終回 神さまの言う通り
               
「ヒカルさん、あなた剛玉君と何かあったの?」
 翌日、ヒカルは学校には行かずにデブ子のマンションにガリ子といた。三人でコタツに入ってミカンを食べている。ガリ子もミカンを5ミリほどの粒にまで分解し、一粒一粒食べている。ヒカルはミカンを剥きながらぶるぶると首を振った。
「それじゃ、他の男の子と何かあったのかしら?」
 ガリ子の鋭い質問に、ヒカルは苦悶の表情を浮かべた。
「なんでもない……」
「本当に?」
「なんでもなく、ないかも……」
「やっぱり。何があったの?」
「北校の、相原さんに……昨日、キスされた」
ガリ子はヒュウと口笛を吹いた。
「す……すごいじゃない。ヒカルさん、やるわね。だけどヒカルさん、あなた剛玉君のことが好きなんじゃないの?」
「ええっ、そうなの?」
 デブ子が今、初めて気付いたように言った。それよりもガリ子には私が冴馬を好きなことが何故バレたんだろうか……。
「ヒカルちゃんも冴馬君のことが好きだったら……私、身を引こうかな。私、ヒカルちゃんの方が好きだもの。」
 デブ子が泣けるような台詞を言ってくれる。ヒカルは、デブ子のぬいぐるみのような巨体が大好きになっていた。デブ子は透明なくらい、気持ちがきれいなのだ。
 
「相原さんっていう、北校の総長で、三年生なんだけど。私、ずっと彼のことどこか体の弱い人だと思ってたの。いつも咳き込んでるし。だけど、話を聞いてると面白くて、本当はたくましい人なんだって昨日、思ったの。本当はキス、したくなかった。だけど、私、よけれなかった。なんだか、吸い寄せられるように、キスしてた……。」
「……これは、恋ね。」
「ううん、恋とは違う……だけど、キスされたら、キスされたことばかり考えてる。何故だか意味がわからない。意味を考える能力がなくなって来てる。でも、本当は私……冴馬とキスがしたい……。そうじゃないと、何がなんだか、私の気持ちがわからない。」
 
「冴馬君ね……冴馬君って、キスなんかする柄かしら?」
 冴馬のことを思い浮かべると冴馬のきれいな髪や、意外とたくましい血管の浮き出た白い腕や、隣にいて何度もドキドキした形のいい肩が自分から遠のいてしまいそうで恐かった。冴馬のあの太陽に照らされた大陸の人のような匂いが、無性に恋しい。
 
「私、冴馬とはずっと、一緒に歩いているだけでいいって思ってた。尼僧みたいにずっと潔癖を保って、嫌われないように一緒にいれたらいいって思ってた……。だけど、たった一瞬のことなのに、相原さんが消えない……。」
 
 ガリ子は難しい問題を解くような顔をしてキッパリとこう言った。
「消えないのは困ったものね……どう? いっそのこと、両方と付き合えば。」
「そ……そんなのできるわけないでしょう!」
「そうかしら。だとしたら、あなたがどうしたらいいのか、あなたはちゃんと知っているの? ヒカルさんって、昔の少女マンガみたいに無駄なことしそうだから私、今のうちにいい方法を教えるわ。」
「えっ……。」
「誰でも知ってる方法よ。とても簡単だからみんな忘れてしまっている魔法があるの。小さい頃によく言ったでしょう? か・み・さ・ま・の……」
「い、う、と、お、り……?」
 私とデブ子はハモってしまった。ガリ子はにやりと笑った。
「その通りよ。ヒカルさん、神さまの言う通りに行動すれば大体のことは合っているのよ。」
 
「でも私、うちが宗教で神さまを利用してこじんまりと稼いできたから、神さまなんて、信じられない。」
「バカね。信じる信じないじゃないのよ。その辺にいるのよ! 八百万の神なんて言ったらその辺に八百万よ。思った通りに動けばいいのよ。大体、キスされたぐらいで悩むことないのよ。キスぐらいじゃ子どもだってできないわよ。いい? あなたが、好きだと思ったらキスしていいのよ。それに、好きな人枠がたった1人だとは限らないじゃない。」
「ええっ、1人じゃないの……?」
「別に1人でもいいけど、そんなに悩むんだったら両方とキスしてから悩めばいいのよ。私、痩せたい痩せたいっていつも言うくせに、一向に痩せない人を見るとイライラするの。あなたの痩せたさは口先だけ? って思うのよね。ヒカルさん、あなたは子どもみたいに『好きだけどもう会わない』とか、そんな台詞言わないわよね? 言ったら私、絶交するから。」
「わ……わかった。」
 ガリ子の正直さは、他人に対して正直なんじゃない。自分に対して正直なんだ。そしてそう正直であることを私にも要求してくる。
 ガリ子は、色々な条件を取っ払って、本当の私が何をしたいのかを問うてくる。私は、誰とキスがしたいんだろう……。
 相原さんにキスされた時、びっくりするくらい、相原さんの気持ちが伝わってきて、私は、そう。困ったのだ。こんな風に、私も冴馬のことが好きだから。心臓がつぶれそうなくらい、好きだから……。
 
 一日経って学校へ来ると、昨日は胸がつぶされそうなほど辛いと思った出来事が、なんてことのないように感じた。みんな、精一杯に生きているのだと感じて驚いた。
 昨日、アイラ先輩はサイトを更新して新しい悪口を書いたのだろうか。それすらも、どうでも良いことのような気がした。彼女はきっと、思う存分傷つきながら育って、その傷を同じ分だけ誰かに返さないことには、治らない病気を抱えているのだろう。
 昨日の夢には冴馬と、アイラさんが出てきた。彼女は一生懸命言葉を紡いで言葉によって誰かを操ろうと必死になっている。だけどその彼女の腕を誰かが操り人形の糸で操っている。糸がこんがらがって、彼女はぐるぐる巻きにされている。彼女はベッドの上で口から蜘蛛のように糸を吐き、その糸が全身に絡まっている。糸を断ち切る方法がわからないねと私は部室で冴馬に相談している。
 すると冴馬は短めの斧を持って、「僕は彼女がその糸を切る手助けをしたい」と言って、自分の腕を蜘蛛になったアイラさんの前でザックリと切り落としてしまうのだ。私が叫ぶ。画面が真っ赤に染まる。冴馬はもう一方の腕を切るようにアイラさんに片腕で斧を渡して言った。
 
 「心の赴くままに、傷つけていいのは僕までなんです。どうか、ヒカルさんを傷つけないで下さい」
 冴馬は冷静に語っているのだけど片腕からの出血が止まらなくなっている。私は半狂乱になって「冴馬のバカ! 冴馬のバカ!」と叫んでいる。だけど血だらけになった冴馬があまりにも冴馬らしいので、私はそのままの腕のない冴馬を抱きしめて愛していると思う。
 その時、夢の中だけど私は、両腕のなくなった冴馬を一生、守って生きていこうと思った。そうか、私の思う好きって、こういうことなのか……。
 冴馬が、好き。冴馬が、大好き……そう思っていたところで、目が覚めた。
 
 目が覚めると私は、枕がずいぶん濡れていることを知った。眠りながら泣いていたらしい。心臓がバクバクと鳴っていた。
 あまりにも強烈な夢で、現実の私達に起こる小さな問題が霞んで見えそうだった。夢の中で冴馬の両腕がなくなっていたから、冴馬の身に何か起こらなかったかどうか起きてからひどく心配した。心配しながらも、冷静さを取り戻すと唇が熱を帯び、昨日触れてしまった相原さんの唇を思い出してしまった……。キスって一体、何なのだろうかと思う。
 冴馬にキスして、と言ったら、冴馬はキスしてくれるのだろうか。冴馬のことは全然読めない。
 
 夢のせいで心と体が珍しいバランスになっていて、体がフワフワと浮いているような気持ちになっていた。学校の階段を降りながら昨日のことを一切忘れてしまって、いつもの通りに「おはよう」と言うと、つられて昨日私を無視した女の子が「おはよう」と言った。不思議な、夢の延長線上にあるような一日だと思った。
 
 仏教部の部室に行くとやはりそこには、「蕎麦」と書かれた紺色の暖簾が下がっていて、「ああ、やっぱりドアは壊されて蕎麦屋の暖簾になったのは現実だったんだな……」と思ったのだけど、中に入ると思いもかけない奇跡が起こっていた。
 仏教部の部室に、ガリ子と、ずっと学校に来ていなかったデブ子が一緒にいたのだ。
「ヒカルちゃん、おはよう」
 と、デブ子は言った。体に合う制服が間に合わなかったのか、紺色の制服と同じ色のニットのワンピースを着ていて、それがすごく似合っていた。
「昨日のヒカルちゃんが心配で、学校に来ちゃった。今日から、ちょっとずつ通おうと思うの。」
 そして小声で私に囁いた。(もうキスのこと、大丈夫? 心配ない?)と。
 
 私はデブ子に心配されている。きっと、私が彼女たちを心配するよりもずっと、ガリ子とデブ子は私を心配してくれている。
 顔を上げると冴馬がにこやかに私の方を見て微笑んでいた。
「冴馬……」
 私は言った。近づくと冴馬の匂いがする。冴馬の匂いは私を暖かく包んでいた。苦しいほどに香る、冴馬の匂い。とくん……と、自分の心臓が動くのを感じた。
「私、冴馬のことが好きよ。」
 そう言うと、やっぱり冴馬は全然読めないけども邪気のない笑顔でこう言った。
「僕もですよ、ヒカルさん」
 と……。
                              ダーリンはブッダ・完

 

 

ダーリンはブッダ 第14回 ベビースターの人

イラスト/ナカエカナコ             
 
ダーリンはブッダ 第14回 ベビースターの人
              
「ちょっと、店長またベビースター来てますよ〜。もう1ヶ月くらいずっと通ってきてますよ〜? もう、皆勤賞あげたいかも。」
「シッ! ベビースターって呼んだら本人に気付かれるでしょう? だけどベビースター、またジャンプ立ち読みしてるの? よく毎日2時間も同じジャンプ立ち読みできるわよね。ルフィのセリフとかもう暗唱しちゃうんじゃないの? だけどアレ、ベビースターは恋する男の目をしているわ。なんか、焦燥感に溢れているもの。ドトールコーヒーとベビースター持ってくる目が可哀相でそそるわよね。」
「ジャンプ読んでるふりして誰を待ってるんでしょうね〜。」
 コンビニ店員の会話に気付きもせず、相原はあの北校の事件の後、ヒカル恋しさにねんざが治ると学校帰りにわざわざ北校と正反対の方角にある西校近くのコンビニでジャンプを立ち読みし続けた……。ユージに北校の密室で何もできなかったことをこの一ヶ月間散々バカにされ続け、自分でもどうして携帯の番号すら聞かずに過ごしてしまったのかと悔やみに悔やんだのだが、たどり着いた結論は、「偶然ヒカルに出会うよう心がける」ことだった。哀れなほどに相原は純粋だった……。
 あれから1ヶ月、ヒカルがローソンに入ってくる日は訪れなかった。ヒカルは放課後は仏教部の部室で夕方まで過ごすか、ローソン前を通らない急な坂のある近道を自転車で帰って、タクシー移動のガリ子とデブ子のマンションで落ち合ったりと。それなりに忙しかったのだ。そんなヒカルが無意識でローソンに立ち寄ったのは、ひゅうひゅうと心に吹いた薄ら寒い風をどうにか、和らげたかったからである。入店のチャイムが鳴ると、ジャンプを立ち読みしていた相原はヒカルの姿に驚き、ヒカルの姿が菩薩のように輝いて見えた。コンビニに菩薩が入ってきたのである。
(や、やっと……やっと会えた……)
 ヒカルは相原に気付かずに文具のコーナーに行き、黙って消しゴムを見つめた。消しゴムがトラックに積まれ、中央から運搬されてこのローソンにたどり着く様が目に浮かんでくる。それと同時に瀬ノ尾アイラのパソコンが起動しているのも感じる。
(この状況は、いつまで続くのかしら……)
「ヒ、ヒカルさん!」
 驚いて顔をあげると、そこには印象深い黒髪の、相原が息を切らして立っていた。
 
「ごめんなさい……、上着、すぐに返そうと思ったんだけど連絡先がわからなくて……北校まで持って行くの、ちょっと恐かったから。」
 ヒカルは空手道場と宗教の看板を指差して、「ここが私の家。」と、遠慮がちに言った。相原はローソンからヒカルの家まで歩いてくる間、この世が変容していくような不思議な気分に包まれていった。見たこともない団地と、家の近所を少し恥ずかしそうに歩く見たこともないヒカルの表情。以前会った時よりも憂いを帯びたヒカルの顔を、相原は切なく思い、もっと好きになっていた。
 バイクを乗り捨てて来て、本当によかった。自分が乗ってきたバイクをローソン前に置き去りにして来た相原は、後からまた西校側のローソンまで歩いて帰らなければならない。だけど、そんなことよりもヒカルと一緒に歩きたかった。歩いてみるとヒカルは、とても小さい女の子だった。相原の身長が高すぎるのかもしれないが、自分よりも30センチも背の低い女の子が、小さな頭にポニーテールを揺らし、白い息を吐きながら歩いている。北校では見ることのない、華奢な女の子という生き物……。
 総長の相原は北校の三年だが、ヒカルはまだ西校の一年なのだ。年下の女の子が、こんなに小さいものだとは思わず、心臓が痛いくらいにドキドキした。ヒカルは、あれほど学校で色々あった帰り道に相原に偶然出会ったことを、不思議に感じていた。
(どうしてだろう……誰かに聞いて欲しい時に相原さんに会うなんて……)
「あのね、相原さん」
「ハ、ハイ」
「今日、学校でクラスの女の子に、無視されちゃったの。昨日まで普通に話しかけてくれていた子が、急に知らんぷりして態度を変えるって、男の人でもよくあることなのかしら……」
 すると相原はカッと目を見開いて言った。
「何ィ!? ヒカルさんのことを無視、だあ!? 俺が行ってぶん殴ってやるッ!」
 相原は拳を振り上げた。ヒカルは驚いて相原に言った。
「な、殴っちゃダメよ! それに相手は女の子だもの」
 すると相原はぐっと堪えて言った。
「そうか……女同士は殴らないんだな……そりゃ、ストレスも溜まるよな」
 と。すると妙にヒカルは納得した。そうか、私達は殴り合わないからストレスが溜まるのかと。放課後から感じていたお腹に鉛が溜まったような妙な感覚の正体はストレスだったのだ。
「ヒカルさんの西校と違って北は頭悪いからさ、心理戦とか一切できねえんだ。頭に来たら殴るし、勝負は力で決まるから悪いのはケンカが弱いヤツってことになるんだ。だけどそれは実力の話だから誰も文句は言わねえ。負けたヤツは自分の腕を磨くか、強いヤツと顔会わさねえように逃げるかのどっちかだ。俺は、ケンカが弱いから本当は総長になんてなれる器じゃないんだが、絶対殴られるのが嫌だという気持ちだけは負けねえって思ってた。そうしたら、北校の総長になってたんだ……」
 するとヒカルは驚いて言った。
「あ、相原さんって北校の総長だったの……? っていうか、総長って番長みたいなもの? そういうのってまだあるんだ……」
「えっ、知らなかったっけ……」
 ヒカルは、この間会った時は泣き面でヒカルと一緒に暗い夜の校舎から脱出しようとジタバタしていた相原がまさか北校の総長だとは思えなかった。そういえば、最終的に脱出できたのは相原の蹴りによって一撃で鍵のかかったドアが壊されたせいだと思い出した。
「この間は、ユージが……俺の舎弟が君をさらってしまって、本当に悪かった。」
「ううん。どうなることかと思ったけど、何もされなかったし。」
「ヒカルさんのことを苦しめるヤツがいたら、俺はいつでも行って殴ってやるから。いつでも俺を、呼んでくれ」
 照れながら下を向いてつぶやく相原が、何故か可愛らしく見えた。この人といると、自分が年上のような錯覚を覚えてしまう。ヒカルは道場があるせいで滅多に友達を入れない家に相原を入れた。北校と西校の違いの中に、今回の事件を解決させるヒントが隠されているような気がして、もう少し話を聞きたくなったのだ。相原は、初めて入る女の子の部屋に、胸が痛くなりすぎてしゃがみ込んでしまった。以前からこんな相原の姿を見たことのあるヒカルは、相原のことを「体の弱い人」だと思っていた。
「だ、大丈夫?」
「くぅ……だい、じょうぶだ……」
 ヒカルの部屋からはヒカルの匂いがした。相原は全ての思いが自分からこぼれ落ちてヒカルの部屋に巻き込まれ、自分が消えてなくなりそうだと感じた。ヒカルの部屋にはベッドがない。それが唯一相原を落ち着かせてくれる要因だった。ここでベッドなどを見てしまった日には、間違いなく自分は理性を失うと相原は確信していた。
 未だに布団で寝起きするヒカルは折りたたみの丸いテーブルを広げ森永のココアを淹れて出すと、相原に座布団を勧めた。ヒカルが推察するに、「思い」は「形」を取りたがる。
 もしもヒカルに起こったことが北校で起こったことならば、瀬ノ尾アイラの書き込みに頭に来たら、気が済むまで殴ればいいのだ。だけど冴馬はその行動を取らない。暴力が暴力を生むことを知っているから。まるでアイラの気が済むまで好きにさせようとしているみたいだ。しかし、彼女の気が済むまでというのは一体、いつまでのことを言うのだろう。
 三年生の彼女が学校をやめるまでなら、あと数ヶ月というところだが、その数ヶ月を無駄に苦しむ必要があるのかどうかをヒカルは疑問に思っている。それに始まってしまったイジメは彼女の卒業で収束するとは思えない。
「ねえ、相原さん。人を苦しめたい気持ちって、どうして起こるのかしら?」
「ええっ!? そ、そうだなあ……ケンカでぼこりたいっていうのは、うちのユージの場合は楽しいからやってるみたいに見えるけど、普通は復讐心からかな……。」
「誰への?」
「ええっ、誰への!?」
 ヒカルは「誰への?」という問いが自分に跳ね返ってくるのを感じた。そしてふいに、朝に冴馬が言った「ヒカルさんはよく育てられましたね」という言葉を思い出した。
「ご両親への……復讐のために彼女は、私達に刃を向けるのね、きっと……。どうして自分の両親に向かわずに、違うところにエネルギーを向けるのかしら。」
「……それは、そいつにだけは嫌われたくねえからじゃねえかな……。俺ンところのユージはさ、義理の両親にすっげー大切に育てられたんだ。俺んちはユージんちの隣で、昔っからユージんちの義理のお袋見てるけど、本当にいい人なんだ。だけど小さい頃の記憶ってなかなか消せねえみてえでさ、未だに本当の親が許せねえって言うんだよな。
 本当は、本当の親の方に大事にされたかったんだろうって思うよ。なんで俺を捨てたんだって、本当の親を殴りたい気持ちは、本当の親に甘えたい気持ちと同じなのかもしれねえし。だけど、殴れねえし甘えもできねえんだ。そりゃ、辛いよな……。アイツ見てると時折、そう思うことがある。まあ、言わねえけど。」
 相原はあぐらをかいていた自分の足を見つめた。白い靴下に灰色に浮かんだ汚れがアイボリー色の絨毯を敷いたヒカルの部屋にそぐわないような気がして、途端に恥ずかしくなって居住まいを正した。
「相原さん……色々教えてくれて、ありがとう。」
 ヒカルは素直にそう言った。その唇の動きを見ていた相原は上体をかがめ、そっとヒカルの唇に自分の唇を重ねていた……。一ヶ月間ローソンに通い続け、募りに募った思いが、無意識に漏れ出していたのだ。キスしたのか、していないのかわからないくらいにそっと触れ、気付くとヒカルの顔が目の前にあった。その時、鈍感なヒカルも、相原が自分のことを好きでいることを知ってしまった。学生服のシャツから覗く相原の鎖骨のラインが随分と美しいことにも気付いてしまった。肩幅が広い。そして初めてヒカルは、相原の匂いというものを意識した。
 その匂いは長らく部屋に守護神のようにハンガーに掛けられていた刺繍入りの学生服と同じ匂いがした。触れぬか触れないかのキスだったが、初めてキスをしたヒカルは軽く脳がトランスするのを感じた。何かとても大切なものを受け取ったような気もした。そして目を開ける頃には、「今のなし……」という気持ちが湧き上がってきたのだった。
「相原さん、帰ろう! コレ、上着。ありがとうまたねっ!」
 ヒカルは上着をハンガーからぶん取り、相原に押しつけるようにして部屋から相原を追い出した。
「……ごめん、ヒカルさん!」
 相原の声が部屋の外から聞こえた。小さい声で「ヒカルさん……俺、ヒカルさんのことが好きだ」とも聞こえた。ヒカルは、どうしていいのかわからなかった。ただキスをした感触だけが残った。冴馬じゃない人とキスをしてしまったという後悔と、かけがえのないような甘い感触が。
 
第13回「オーディエンス」
最終回「神様の言う通り」
 
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