THE青森暮らし 第205回「さしこ 田中忠三郎着物コレクション」

NHKで「日曜美術館」を見た東京の友人が、

「テレビで青森の刺し子を取り上げていて、

それがすごくきれいだったから週末、青森に行きます!」

と急いで電話をかけてきました。

「そ、そんなにきれいだったの?」

「うん。青森の刺し子って、すごいね。私、朝の10時に青森に着いて、

午後の1時35分に出る電車に乗って鶴岡に向かうから、

3時間ぐらいしかいれないんだけど……

さ……3時間! それじゃ、郷土館まで私が案内するわよ。」

「お願いします。恩に着ます!」  

私の友人には衝動だけで生きている人が多いので、

年に何度かは衝動的に青森にやって来る友人達を出迎えなきゃいけないのです。

 

そんなわけで、青森県立郷土館で民俗学者の田中忠三郎先生

昭和40年代から青森の農・山・漁村を何十年にも渡って集め続けた、

刺し子の展示を観に行ってきました。  

田中先生が一軒一軒、

そこに住む姥や古老の話を聞きながら集め歩いた刺し子着物のうち、

国重要有形民俗文化財に指定された物は

786点におよびます。

青森県立郷土館では、その中から200点を選び、

「企画展さしこ 田中忠三郎着物コレクション」を開催しました。

 

江戸時代、寒冷地である本県では綿が育たず、庶民の着物は麻と決まっていました。

麻に貴重な木綿の糸で刺し子をして補強すると、保温性も高まります。

そうして手間をかけて作った服は、私たちの先祖を寒さから守ってくれました。

布の貴重だった時代、農家の女性は冬の間に刺し子をして、

自分の晴れ着に美しく幾何学的な刺し子模様を刺繍し、それを持ってお嫁に行ったのだそうです。

 

染め上げた藍色の麻に白糸で刺した模様が映えて、その細やかな刺し子の文様を見ていると、

まるで小さな宇宙がそこにあるかのようです。  

こぎん刺しの着物は晴れ着として使われ、古くなると仕事着としたそうです。

田中忠三郎先生の著書「サキオリから裂織へ」には、

刺し子の着物を着て南部菱刺しの前掛けを付け、

頬被りをした明治生まれの上北町の女性の写真があり、

その佇まいの美しさに息を飲んでしまいます。 

この展覧会で見ることの出来る美しくモダンな刺し子は仕事着に施されていて、

その仕事着を見ると当時の人達が田んぼや畑で見せたであろう美しい野良姿や、

それに刺繍を施した女性の心が見えてくるのです。

 

田中先生が集めたぼろという、

もっと布が貴重だった時代に小さな布切れを継いで何世代にも渡って使われてきた布は今、

浅草にあるアミューズミュージアムに展示されています。

たくさんの方々が青森県の女性が寒さから家族を守るために大切に繕い、

刺し子をしたぼろを見て、「奇跡のテキスタイル・アート(布の芸術)」として賞賛しているのです。

ぼろや刺し子の美しさを、いつか青森県立美術館でも企画展示して頂いて、

たくさんの方々に広く、この繊細な美しさを見てもらえたらなあと思ったのでした。

 

読売新聞青森県版1月19日掲載分

 

さしこ~田中忠三郎 着物コレクション」 

 

重要有形民俗文化財「津軽・南部のさしこ着物」786点は、

その膨大な量とともに、本県のさしこの特色を顕著に示す貴重な着物コレクションです。

 

[期間] 2012年12月22日~2013年01月27

[開館時間] 9:00~17:00

[料金]  一般:250円(200円)、高校・大学生:120円(100円)

※( )内20人以上の団体料金 ※小中学生は無料、

障がいのある方は免除 ※上記料金で常設展示も観覧できます。

 

 

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