[うちのバッチャ] 13. 第二のひ孫誕生

 
13. 第二のひ孫誕生
 
「自宅の庭に、縄文時代の竪穴式住居を建てたら、妊娠してた」という、冗談みたいな本当の話が、我が身に降りかかってきました。
なぜそんなものを建てたのかというと、青森県には約5000年前から3000年前に縄文時代の人が暮らしていた遺跡がたくさんありまして。縄文遺跡に通ううちに、いつの間にか遺跡で食べるおにぎりが美味しくて縄文遺跡が好きになり、作家の田口ランディさんと「縄文友の会」という会まで結成した私は、2008年の夏に竪穴式住居の建設に踏み切ったのです。
とにかく、穴を掘って丸太で柱を立てて、住居を作ろう! と。そして、恐る恐るバッチャに、「おばあちゃん、庭に、竪穴式住居を建ててもいいですか?」と聞いたところ、「恐ろしな!」という許可を得たわけです。
 
建設の日、約10人の男達がカレーライスを食べさせると言われて連れてこられ、
「ここに穴を掘ってくれ。深さ1メートルぐらい。」
と言われ、スコップを手渡されました。
「カレーが食べられるって話はどこにいったんだ!?」
「大丈夫。直径3メートルの円に掘ったら、カレーを食べさせてあげるから」
そう言われて、夏の暑い盛りにえんえん深さ1メートルまで掘り進むと、今度は「ナタで木を削って杭を作ってくれ。」とナタを渡され、「一体、何本だ?」と聞くと、「まあ、150本くらいかな?」とサクッと言われ、「一体、いつになったらカレーを食べさせてくれるんだ〜」と、人々が汗だくで、だまされながら作ったのが、わが家の竪穴式住居なのです。
掘った穴の周りを杭で囲って土の進入を防ぎ、中に杉の丸太で4本の柱を立て、5メートルぐらいの長めの棒50本と、杉の皮付きの板400枚で屋根を葺いたわが家の竪穴式住居の影には、カレー一つにだまされて穴を掘った男達のロマンが隠されていたのでした。
建設にかかった日数は材料集めに2ヶ月間、作業に4日間でした。
おそらく、縄文時代にも人々はムラの男衆総出で住居を建て、女達はカレーではないにしても、イノシシ汁とかそういうものを作って、男達を鼓舞していたに違いありません。
「イノシシ食べたらがんばるのよ~!」って。
その竪穴式住居は、初めて建てたにしてはやけに本格的なものに見え、なぜか青森県庁の方々が視察に訪れるようにもなり、噂を聞きつけた地元新聞やラジオ、テレビ、FM東京の方々も取材に来てくれました。
 
しかし、何より不思議だったのは、住居が完成した日になぜか私の妊娠が発覚したことです。
「産まれてくる子は縄文の末裔に違いない」
そう言われ続けた私の出産日前日……その日、青森市に住んでいらっしゃる、私の憧れの民俗学者・田中忠三郎先生から私の元にお手紙が届きました。驚いて中を開けてみると、こんなメッセージが。
「昔、産婆さんも産婦人科もなかった頃、出産する時産婦は、おなかに麻ひもを巻いておりました。麻は神が宿るもの、聖なる力があるものといわれ、赤ちゃんを守っておりました。この麻ひもは赤ちゃんを守って下さるでしょう……。」
そして、封筒の中からは白い紙に包まれた、麻ひもが出てきたのです。
こ、このひもが、赤ちゃんを守って下さるのですか! 麻ひも……というより見た目が「縄」なんですけど……!
そうこうしているうちに陣痛がやってきました。巻くか巻かないか? という選択肢がどんどん迫って参りました。もう、迷っている時間はありません。巻いて安産なら、巻けばいいじゃない! 
腹に麻ひもを巻き、会社に行った夫を電話で呼び戻すと、既に陣痛は3分間隔。
移動の最中に
「イダダダダ! イダダ! イダダダ! い~た~い~」
と、呻きながら産婦人科へ向かう夫と私。途中、車窓からは青空に映えた真っ白な岩木山が見えて、なんともいえない出産日和。
産むなら、今日!
 
長男出産時にかかった時間は4時間35分でしたが、今回は産院着いて早々、助産師さんがこう言いました。
「もう、産んじゃいましょう!」
「も……もうですか!」
「もう頭が見えてますから、産んじゃいましょう!」
言われるがままに分娩台に上がり、指示通りに「ふんぬー! ふんぬー!」といきんでいたら、なんと。第二子は分娩台に上がってから、18分で産まれてきたのです。
こ、これが、麻ひもの力なのか……?
「お疲れ様ですー。お母さん、2900グラムの男の子ですよー」
「ええっ男の子? わ、本当だ!」
「それじゃあ、お母さんのパジャマも着替えましょうねー……ハッ。な……、縄?」
助産師さんに見られたのは、普段出産では見かけることのない私の腹に巻かれた麻ひもでした。
「あ、あの。青森県では昔、おなかに麻ひもを巻いて出産に臨むと安産になるって言い伝えがあったと民俗学の先生が……」
「ええー! 初耳ですねー!」
初耳……。やはり、腹に縄を巻いて出産する人など、近代においてはいなくなっていたのですね。この産院で腹に麻ひもを巻いて出産したのは、きっと私が初めてです。
 
それにしても、分娩台に上がって18分で出産というのは早すぎるような気がします。私はよほどの安産だったらしく、産まれてきた子はすごくきれいな丸い頭の形をしていました。バッチャはあまりの赤ちゃんの小ささに、
「これは、マペコだなあ。マペコ! マ~ペコ!」
と、津軽弁で「小さい子」というあだ名を付けてくれました。
ありがたい麻ひもを入院中、冷蔵庫の横のタオル掛けに結わえておいたら、見舞いに来た家族全員に
「縄? なんで縄……?」
と、一様に驚かれてしまったのでした。
 
 
 

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