[うちのバッチャ] 16. スティーブ・ジョブズの孫

スティーブ・ジョブズの孫
 
 師匠とマペ次郎もようやく保育園に入りまして。バッチャの朝は、2人の保育園児の支度を手伝いながら、「さっさとご飯食べなさい! ハミガキしなさい! 服着なさい! いつまでもテレビ見てないで、サッサとしなさい!」と、叫ぶことから始まるようになりました。
「子どもが保育園に行くまでの時間が、1日のうちで1番大変ですよね……」
 私が言うと、バッチャは「いくさだ……」と答えたのでした。
 なかなか、普段の生活からは「戦」という言葉は出ないものなのですが、うちのバッチャからは出てきてしまうのですね。とくに朝の時間がない時にジッチャがうろうろし出すと戦況はより混乱してきます。刻一刻と登園時間が迫り来る中、ひ孫が顔を洗おうにもジッチャが洗面台からどかない時、バッチャは朝一番の声を出します。
「おジッチャー! 聞こえてるんずなー? さっさと、どかなかー(どきなさいよ)!」
 わが家のジッチャも今年で90歳です。さすがに耳が遠くなって来て、怒鳴られたって聞こえやしません。
 
 近所のヒサオさんの家でも、70歳を過ぎた頃からヒサオさんの耳が遠くなったそうで、ヒサオさんの奥さんは耳の悪くなったヒサオさん相手にこう言うのでした。
「おジッチャ、いいか? わ(私)が喋る時は、よーく唇の動きを見へ! そうすればわかるはんで!」
 と、70歳を過ぎてから「読唇術を覚えろ」と言うのでした……。耳の聞こえなくなったおじいちゃん対策はあちこちで始まっているのです。
「なして(何故)、こしたに(こんなに)聞こえなくなってまったんだべ? わい~、なんぼいい耳だもんだずかさ!」
「なんぼいい耳だもんだずかさ」(どれだけいい耳なんでしょう)は、津軽の人がよく使う冗談です。全然切れない包丁を津軽の人は、「なんて切れない包丁なのよ」とは言いません。「なんぼ良く切れる包丁だのよ!」と、正反対のことを言ってギャグにしてしまうのです。
「おばあちゃん、耳っていうのは、耳をよく使った人ほど悪くなるものらしいんですよ。ベートーベンも若い頃から難聴で苦しんで、耳が聞こえないからスプーンをくわえてピアノにあてて、その振動を感じながら作曲したって言いますよ」
 すると、バッチャは感心たようにこう言ったのでした。
「おんろ~、あの人だばそうもすべねえ(するだろうねえ)!」
 と、ベートーベンをまるで知り合いでも褒めるかのように感心して褒めていました。
 
 私とバッチャが青森の片隅で毎日繰り広げられる朝の保育園戦争に駆り出されていた頃、アメリカではアップルの創設者、スティーブ・ジョブズ氏がお亡くなりになりました。
 スティーブ・ジョブズ氏の名言 「Stay Hungry,Stay Foolish」(ハングリーであれ、愚かであれ)の中には、人が必死に生きるためのヒントが隠されています。
 朝のニュースでジョブズ氏の死に、ソフトバンク社の孫正義さんがテレビでコメントを求められているのを観て、バッチャが言いました。
「あれ! この人死んだのか!」
 バッチャはジョブズを知っていたのか? そう思ってびっくりすると、バッチャの指さしていたのは孫正義さんの方でした。
「いや、おばあちゃん、この人はソフトバンク社という電話会社の社長さんで、死んだのはスティーブ・ジョブズっていう外国のアップル社の社長さんです。だから……死んでないです」
 そう答えました。するとバッチャは納得したようにこう言ったのです。
「ああ~この人、その人の孫(まご)だのな!」
 と。
「エエッ、まご? 孫正義さんがスティーブ・ジョブズの、孫……?」
 ……ひょっとするとバッチャは孫正義さんの「孫」を、「まご」と読んだのかもしれません。ま……孫・正義……? 
 こんなことどうして思いついたのかわからないのですが、とりあえずバッチャはすごいなと思ったのでした。
 
 
 

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  1. おふく より:

    さすがばっちゃ!
    ばっちゃにかかれば人種も年齢も
    飛び越えちゃうんだね( ´艸`)

    読唇術のくだりもすごく好きです。

  2. yamadaswitch より:

    おふくさん

    私もこのネタ大好きです。(笑)
    自分で書いておきながら!

    (^-^)p