[うちのバッチャ] 30. アラーキーに会う

 
30. アラーキーに会う
 
 写真家の荒木経惟さん(アラーキー)が青森に来たときに、冗談でプロポーズされた女性がいます……うちのバッチャです。
 私の息子が1才だった時、アラーキーが『日本人ノ顔』というプロジェクトで『青森ノ顔』を撮りに来ると聞いた私は、勝手にバッチャと息子と私の3人の写真を出して、応募しておいたのです。
 応募時に、「うちのバッチャの写真なら一次審査は合格間違いなしだ……」と、そんな予感に包まれました。更に念を押すように、「バッチャは青森の誇る、かの有名な版画家と顔がよく似ています」と言葉を添えました。そう、バッチャはどことなく、棟方志功に顔が似ているのです。
 どういうわけか、この辺のお年寄りは、棟方志功のように深みのある笑い皺が刻まれ、味わい深い顔をしているのです。
 年を取れば取るほどその味わいは揺るぎないものに変わっていき、70才だとまだまだ中途半端な感じで、80才になると相当、完成されてきまして、88才になるとどこのジッチャもバッチャも何とも言えないありがたいお顔に変わります。
 
 そんなバッチャが当時1歳の我が子と畑で草取りをしている姿などは、私がカメラに納めてもいい写真に仕上がるぐらいでした。バッチャは孫と一緒に写真に収まる時、最高の被写体に変わるのです。それは、たくさん生きて、たくさんのことを経験してようやくその顔と雰囲気に、たどり着いているからなのでしょう。
 そんな「青森の顔」とアラーキーの初対面です。
 撮影当日、真っ赤なシャツを着て現れたチョビ髭姿の写真家アラーキーは、現れた瞬間に世界が止まり、空気が渦巻いて見えるほど、彼自身から熱いモノが溢れていました。
「この人が天才アラーキーか!」
 そう胸が高鳴りました。
 そして、アラーキーに撮影される心構えを持った「青森の顔」たちの意気込みも、半端ではありませんでした。
「ご自身の職業を意識した格好でご来場ください」と応募用紙にあったのを見て、会場には「まわし」を締めた相撲部の高校生が数人で気合いを入れていたり、マグロで有名な大間町の皆さんがマグロTシャツを着てやって来たり、93歳になるおじいちゃんがベレー帽を被ってステッキをついて来たり、喫茶店のおかみさんが、ついさっきまで店の仕込みをしていたという出で立ちで現れました。
 私は「ご自分の職業」と聞いて、「それは息子のお母さんという職業に違いない!」と思い、普段通りの子供を背負ってねんねこを着て、長靴を履いた「尾上町スタイル」で参加することにしました。
 このねんねこ一式はバッチャが昔、孫であるケンさんを背負うのに使っていたものです。
 アラーキーは休む間もなく次々に被写体である我々に声をかけながら、バシバシと写真を撮っていきます。あの元気さは異常なほどでした。
 孫嫁に撮影会場であるデパートに連れて来られたバッチャは、アラーキーに写真を撮られながら、「80歳のおばあちゃんにプロポーズ!」と言われ、「わい、どーすべ!」(あらまあ、どうしましょう!)と答えていました。
 後日、この時撮影された写真集「日本人ノ顔 青森ノ顔」を見て驚きました。なんと、バッチャと私が表紙に起用されていたのです。
 驚いてバッチャに「おばあちゃんが表紙ですよ!」と言うと、バッチャはやっぱり、「わい、どーすべ!」と顔を赤らめて、「年いくしなに人生、いぐなるもんだなあ」と……、年を取るごとに人生って良くなっていくものだなあと語ってくれました。
 一次審査の申込用紙に「うちのバッチャは棟方志功に顔が似ています」と書いたことは、本人には内緒にしておこうと思います。
 
 
 

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これを読んだら即・元気!!

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