うちのバッチャ近況
わが家のジッチャが91歳を迎えた年。さすがに耳が遠くなって来て、バッチャに「おジッチャー! 聞こえてるんずなー?」と日に何度も叫ばれる日々です。
近所のヒサオさんの家でも、70歳を過ぎた頃からヒサオさんの耳が遠くなったそうで、ヒサオさんの嫁は耳の悪くなったヒサオさんにこう言うのでした。
「おジッチャ、いいか? わ(私)が喋る時は、よーく唇の動き見へ! そうすればわかるはんで!」
70歳を過ぎてから、「読唇術を覚えろ」と言うのでした。耳の聞こえなくなったおじいちゃん対策はあちこちで始まっているのです。
「なして(何故)ジッチャ、こしたに(こんなに)聞こえなくなってまったんだべ?」
「おばあちゃん、耳っていうのは、耳をよく使った人ほど悪くなるものらしいですよ。作曲家のベートーベンも若い頃から難聴で苦しんで、耳が聞こえないからスプーンをくわえてピアノにあてて、その振動を感じながら作曲したって言いますよ」
「あの人だば、そうもすべねえ!」
「あの人って……!」
バッチャはまるで近所の若者を褒めるようなそぶりで言うのでした。
バッチャ達にかかれば、あらゆる偉い人は偉そうでなくなってしまいます。例えば、第67代アメリカ合衆国国務長官のヒラリー夫人を津軽弁で表現すると、「クリントンのアッパ」になります。アッパって……。
アッパとは「嫁」のことなのですが。この辺の人は「~の嫁」という表現を非常に多く使うので、安室奈美恵は「SAMのもどの(元の)アッパ」という風に呼ばれますし、ヒラリー夫人が選挙戦でがんばっても、「あのアッパ、たげだもんだの!」と、言われるだけなのです。ちなみに「たげだもんだ」とは、「すごいもんだ 大変なもんだ」と同じような意味です。
世界情勢がどのように動いていようと、津軽ではアメリカ合衆国の大統領を見たバッチャ達が、「オバマも年いったもんだの~」と、自分たちの年齢をさしおいて「オバマ大統領も年取ったなあ」とのんきにフキの皮をむきながら、語られているのでした。
さあ、そんな辺境の地・津軽のバッチャのお話。はじまり、はじまりです!
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