無意味せんげん - 山田スイッチ –
山田スイッチは、一切意味を求めません。ちなみに7歳男子と3歳男子を田舎で子育て日記。
2012/10/29 カテゴリー: ブログ書評のようなもの。 タグ: カーラこの世サンランディ断片新作田口 「サンカーラ この世の断片をたぐり寄せて」  への2件のコメント

2012年9月のある日に、田口ランディさんのTwitterでこんな言葉がつぶやかれていた。

 

「わたしはわたしじしんの神秘についてしらなすぎる。わたしじしんの隠された美や、無垢や、

誠実について知らなさすぎる。わたしに向う情熱が少なすぎる。わたしを知ろうとする熱烈さが少なすぎる。

わたしこそ人生をかけて解くべき謎であるのに……。その答えを他人にもとめすぎる。」

 

と……。

このつぶやきは一瞬で胸の奥に大きな謎として入ってきて、

私の心を占めた。

 

この言葉が、

当たり前のようにタイムラインから流れて去っていくのは

本当に不思議だった。

そこに本当の答えがあってそこに分け入っていくことを

わたしたちはしなきゃならないしそこにしか答えはないように

感じた。

 

「サンカーラ この世の断片をたぐり寄せて」は、

自分の上をたくさんの津波が通り過ぎていくのを感じながら、

ザアザアと流れる海の底にある静かな「わたし」がいる場所へ

帰りたいと願っている小さな女の子のお話だと思う。

 

田口ランディという一人の女性を何人かの写真家が撮ると、

撮る人によって全部違う人になる。

強いランディさん、面持ちの深いランディさん、面白いランディさんと……、

いろんなランディさんが写真に映っている。

 

だけど、何度か田口ランディさんにお会いして、一番この人の底に沈んでいる静かな砂を写しているのは、

にのみやさおり さんの撮った田口ランディさんだと思った。

 

そこには、小さな女の子が映っていて

女の子は森で遊んでいた。

賢者にも見えるのに、少しさみしそうな女の子。

森の水たまりの冷たさや匂い、ぬるりとした感触が伝わってきそうな写真。

 

ゴーゴーと流れる社会と情報の波にさらわれそうな

表面の方のわたし を取り残して、女の子は森で静かに遊んでいるのだ。

彼女と、底にいる彼女が一体になることを望んで、

私は「サンカーラ」を読み続けた。

 

「三月十一日以降、私は寂しさや哀しさという感情から疎外されるほど、動き回っていたように思う。

社会が求めるものは常に発言であり、行動だった。沈黙も、瞑想も、求められてはいなかった。

(中略) 私は避難場所を見失っていた。自分を慰める場所に戻れなくなっていた。

  そして、日本を離れてやっと、誰でもない自分になって、この古い城下町のホテルの一室にひきこもり、

内気な自分を取り戻していたのだ。もしかしたら、いまもたくさんの人達が、

被災地で、シンポジウムで、デモ行進で、社会が求めるままに行動し、

発言しているんだろう。そこでは沈黙は、忘れられているのだ。

だが、私はいま、沈黙に宿る力を感じている。

 それは、私の本質にかかわる名もなき力であり、湖底に沈んだ一枚の金貨のように、

ちらちらと光を発していた。」

 

田口ランディ 「サンカーラ この世の断片をたぐり寄せて」 新潮社 より

 

この本は、弱さを全部吐きだして、

「私はこんなに弱いんだよ。社会的に強いように見せている私だって

こんなに弱い。こんなにもだめ。だから、弱くてもだめでも大丈夫なんだよ。」と、

極限まで弱さをさらした本だと思う。

そうすることによって、私たちの、ピンと張り詰めて今にも切れそうな糸を

ゆるめようとしているように感じられるのだ。

 

好きなページがもう一つ。

170ページにある、水俣の緒方直人さんの語る言葉が

波のように静かに寄せてくる。

 

「自分の意志ではないってことですか?」

「どんなにがんばっても、機が熟さなければどうしようもない。それまでは何度でも試される……」

「試される、誰にですか?」

「なんだろうなあ。二十代の頃は苦しくて苦しくて、自殺したかったり、いっそのこと

チッソもろとも爆死なんていう、自爆テロのような衝動を必死で抑えていた。

そういう死にたい衝動がね、何十回どころか何百回と襲ってくるわけですよ。

そのとき、やっぱり俺は海に相談するというかね。自然界に感情をぶつけるわけですよ。

だって生身の人間にはそこまで言えませんからね。それに、もう人間とは言葉が通じなくなっているんですよ。

気が狂ってるんだから、しょうがありません。

だからね、言葉が通じないものに投げかけるんです。

草木や、空を飛んでいる鳥であったり、海であったり、魚であったりね。」

 

 

「沈黙の豊かさ」を模索するためにこの本は与えられている。

そこに、どう分け入っていったらいいのか。

ドタバタとたくさんのものごとに振り回されながら、ヒントは

あちらこちらに

散りばめられている。

 

サンカーラ: この世の断片をたぐり寄せて

2件のコメント

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お。

読んでみたい!!

ぜ、ぜひ!