今年、震災が起きてすぐに私がしたことは、
出ている雑誌をできるだけ種類多く、買い占めることでした。
あの時すでに、出版界に大ダメージがくることを
予感していた私は、少しでも……一冊でも多くの本を
自分のお金で買おうと思っていました。
紙の工場も被災して、雑誌の売り上げも落ち込み、つぶれる雑誌は後を絶ちませんでしたが、
夏の頃からか、ようやくいつも通りの、出版不況でありながらも、本を出していこうという
気概を感じ取ることができました。
- アルカナシカ 人はなぜ見えないものを見るのか/田口 ランディ
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アルカナシカは、今年読んだ本の中で
最も心に残る本。
だけど、この本をどう表現していいのかずっとわからないままでした。
田口ランディさんが取材するうちに出会った、
UFOに何度も遭遇したという、五月男さんの話が最も鮮烈で
記憶に残るのですけど、そのお話は、心の隙間を縫って潜り込んでくるように
じんわりと悲しく、淡々としていて、切ない。
読んでいるうちに私たちは、
中国残留孤児だった、五月男少年の
気持ちになって、その少年そのものになって
五月男さんの体験と同化してしまっているのです。
母親とはぐれ、中国から一人で子どもが日本へ帰ってくることは
とてもつらく大変なことなのに、それを語る五月男さんの口調が、あたたかい。
知らぬ間に本の中に取り込まれてしまう。いつの間にか私は、五月男少年になって
泣いていたり、母親に抱きしめられて、ぼんやりしていたりする。
そういうのが、本当の読書体験なのではないか? と思います。
同時期に出された小説「マアジナル」も本当に素晴らしいのですが、
この、中に取り込まれてじんわりと感じている奇妙な気持ちは
読まなければわからないものです。
- スウィート・ヒアアフター/よしもと ばなな
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お腹に鉄の棒が刺さって死にかけた主人公の女の子が、
死後の虹の麓にいるような、あたたかい世界から戻って来て以降、
目に見えない世界を見るようになり、そうでありながらも
静かな悲しさのある世界で、その空気と…霊が見えるけど普通に暮らしている
やさしい人たちに癒されながら
自分自身を復興させていくお話。
変わりたいと思っていても変われない人たちはたくさんいる。
だけど、本当の意味で変わるということは、
こういうことなのだと教えてくれる本。
この本は、1番ばななさんの見えてる世界を
正直に綴った本だと思う。
こういうのが、嘘がない話なのだと思う。
- アトンの娘―ツタンカーメンの妻の物語 (1) (中公文庫―コミック版)/里中 満智子
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- アトンの娘―ツタンカーメンの妻の物語 (3) (中公文庫―コミック版)/里中 満智子
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この本は、古代エジプトにおけるアトン信仰(純粋な太陽信仰)に
宗教改革をしたツタンカーメンの花嫁の、母親の代から語られるお話なのですが、
本を読んですぐには、エジプト人の性の乱れが心配だと
紀元前1353年の古代エジプトのことを本気で憂い、
中盤では本当の恋って、何なのだろう? と政治に振り回される
二人の少年少女の恋を心配しながら、
本気で少女漫画を読みふけるように切なく嘆息し、
最後。
「神とは人が納得したがるが故に生み出された存在」
という、宗教の底を見つめる光に照らされつつも、
なお、その宗教に助けを求め、縛られる人間の姿が描かれています。
最後のページのツタンカーメンの花嫁の現代に向けたメッセージ
(里中さんの創作)が、見事です。
「あれから3300年も経っているのですから、
人々はより知的になったはずで
真実と理想をその手につかめるはずですが___
それとも、
知性と理性はわたしたちが生きていた
あの時代と、たいして変わりはないのでしょうか?
わたしにはわかりません。
何も、わかりません。
でも、考え続けているのです。
わからなくても、わたしは、
考え続けています。」
「アトンの娘 全三巻」 里中満智子 中公文庫 より
- アトンの娘―ツタンカーメンの妻の物語 (2) (中公文庫―コミック版)/里中 満智子
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