無意味せんげん - 山田スイッチ –
山田スイッチは、一切意味を求めません。ちなみに7歳男子と3歳男子を田舎で子育て日記。
2011/12/29 カテゴリー: 書評のようなもの 2011 読んでよかった本 はコメントを受け付けていません

今年、震災が起きてすぐに私がしたことは、

出ている雑誌をできるだけ種類多く、買い占めることでした。


あの時すでに、出版界に大ダメージがくることを

予感していた私は、少しでも……一冊でも多くの本を

自分のお金で買おうと思っていました。


紙の工場も被災して、雑誌の売り上げも落ち込み、つぶれる雑誌は後を絶ちませんでしたが、

夏の頃からか、ようやくいつも通りの、出版不況でありながらも、本を出していこうという

気概を感じ取ることができました。

アルカナシカ 人はなぜ見えないものを見るのか/田口 ランディ
¥1,575
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アルカナシカは、今年読んだ本の中で

最も心に残る本。

だけど、この本をどう表現していいのかずっとわからないままでした。


田口ランディさんが取材するうちに出会った、

UFOに何度も遭遇したという、五月男さんの話が最も鮮烈で

記憶に残るのですけど、そのお話は、心の隙間を縫って潜り込んでくるように

じんわりと悲しく、淡々としていて、切ない。

読んでいるうちに私たちは、


中国残留孤児だった、五月男少年の

気持ちになって、その少年そのものになって

五月男さんの体験と同化してしまっているのです。


母親とはぐれ、中国から一人で子どもが日本へ帰ってくることは

とてもつらく大変なことなのに、それを語る五月男さんの口調が、あたたかい。


知らぬ間に本の中に取り込まれてしまう。いつの間にか私は、五月男少年になって

泣いていたり、母親に抱きしめられて、ぼんやりしていたりする。


そういうのが、本当の読書体験なのではないか? と思います。


同時期に出された小説「マアジナル」も本当に素晴らしいのですが、

この、中に取り込まれてじんわりと感じている奇妙な気持ちは

読まなければわからないものです。

スウィート・ヒアアフター/よしもと ばなな
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お腹に鉄の棒が刺さって死にかけた主人公の女の子が、

死後の虹の麓にいるような、あたたかい世界から戻って来て以降、

目に見えない世界を見るようになり、そうでありながらも

静かな悲しさのある世界で、その空気と…霊が見えるけど普通に暮らしている

やさしい人たちに癒されながら

自分自身を復興させていくお話。


変わりたいと思っていても変われない人たちはたくさんいる。

だけど、本当の意味で変わるということは、

こういうことなのだと教えてくれる本。


この本は、1番ばななさんの見えてる世界を

正直に綴った本だと思う。

こういうのが、嘘がない話なのだと思う。


アトンの娘―ツタンカーメンの妻の物語 (1) (中公文庫―コミック版)/里中 満智子
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アトンの娘―ツタンカーメンの妻の物語 (3) (中公文庫―コミック版)/里中 満智子
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この本は、古代エジプトにおけるアトン信仰(純粋な太陽信仰)に

宗教改革をしたツタンカーメンの花嫁の、母親の代から語られるお話なのですが、



本を読んですぐには、エジプト人の性の乱れが心配だと

紀元前1353年の古代エジプトのことを本気で憂い、



中盤では本当の恋って、何なのだろう? と政治に振り回される

二人の少年少女の恋を心配しながら、

本気で少女漫画を読みふけるように切なく嘆息し、



最後。



「神とは人が納得したがるが故に生み出された存在」



という、宗教の底を見つめる光に照らされつつも、


なお、その宗教に助けを求め、縛られる人間の姿が描かれています。


最後のページのツタンカーメンの花嫁の現代に向けたメッセージ

(里中さんの創作)が、見事です。




「あれから3300年も経っているのですから、


人々はより知的になったはずで


真実と理想をその手につかめるはずですが___


それとも、


知性と理性はわたしたちが生きていた


あの時代と、たいして変わりはないのでしょうか?



わたしにはわかりません。



何も、わかりません。



でも、考え続けているのです。



わからなくても、わたしは、



考え続けています。」




「アトンの娘 全三巻」 里中満智子 中公文庫 より

アトンの娘―ツタンカーメンの妻の物語 (2) (中公文庫―コミック版)/里中 満智子
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