8日のJOYPOPS店内はたくさんの人でひしめいていた。
会ったことがなくても絶対店内ですれ違っている。
そんな感じの人達でひしめいていた。
お店の、JOYPOPSカラーの紫色に塗られた壁を見ていたら
突然涙が出たのだけども、CREEPSの竹内君のライブも、
仙台のライブハウスから呼び出された古明地洋哉
さんのライブもすごく良かった。そして何より、
ヒートウェイブの山口洋があまりに格好良くて、
こんな美しい人を見てしまっていいのだろうかとさえ思った。
彼が出てくると空気が変わる。
竹内君と古明地さんの演奏中に、なんだか本当に「こっそり」という感じで
寒い楽屋からひょこひょこと出てきた山口さんは、
こっそりエレキギターを調節して(口元にはいたずらっこのような笑顔)、
竹内君達の様子を見ながら(ステージの空気を読んでる感じ)
エレキギターを鳴らし、参戦してくれたその姿はイタズラ好きの音楽の神様みたいだった。
私は本当に単純に思ったね、
「ギターってこんな、色んな音が出るんだ!」って。
本当に単純に、すげえと思った。初めてギターを聞いたみたいにそう思った。
そして空気を掻き乱すんだよ、ギターが。
もう、掻き乱してるのはギターなのか山口洋なのかわからない感じで
あの人の周りの空気が赤く見えた!
CDショップのインストアライブ、ギター一本片手に世界中を狂わすような
演奏をするね、あの人は。口元に笑みを載せて。
山口洋のライブが始まったら冗談抜きで場所が熱くなった。
汗が滲むのでマフラーを取り、コートを脱いだ。
山口さんが
「本日の演奏は全て、店主である斎藤浩に捧げます」
と言い、演奏したのは
「何をやってもダメな男」だった。
♪家をなくしちまった ♪店もなくしちまった
何をやってもダメな男…齋藤浩…!
歌を聴いていて「この人の愛情はすげえな」、と思った。
あの人を取り巻く空気の全てがすごく、
小さなものでも愛する人の優しさに包まれていて
(そういえば古明地さんのライブ中にも音楽を心から愛している人から出る
空気みたいなものを感じた。)
一気に掻き鳴らすギターと歌とでどこまでただの空気を、
赤い、あの熱いものに変えてしまうのかわからなくなるほどに
時空を変えてしまっていた。
「人間の好きなところは…、失敗してもやり直しができるっていうところなんですよ。」と山口さんは言った。
「プロモーションみたいなものでなくて、(JOYPOPSのような)こういうお店に齋藤浩のような人がいて、CREEPSの竹内君が俺の音楽を知って、点と点がつながって線になるような・・・本当の意味での音楽のつながりができると思うんだよね。
点と点が繋がって、線になって、それがまた円になるのを夢見ているんだけど、なかなかそうはならない。まあ、だけどそう夢見ているうちは、なんとかなるかなって思ってるんですけど。」
演奏が始まると凄すぎる何かが降りてくる。
会場はクラップユアハンド、手拍子はドラムスみたいになって、
山口洋がギターを鳴らし、歌い、叫んだ。
「齋藤浩! JOYPOPS!!!!」
そしてこの人はギターで落とすのをわざと2テンポくらいずらして、
ためて落としたりする。そのなんてチャーミングな所作…!
こっちはもう、泣きすぎてクラクラしている。
悲しいでは終わらせない。
「店はなくなっても音楽は続いていくし、この店で育った魂みたいなものはなくならないから」
アンコールが鳴り、最後は竹内君と古明地さん、弘前の「五年先にはすごいミュージシャンになる」25歳の弘前の青年、山口さんの四人がステージ上がり、
ボブ・ディランの『like a rolling stone』を演奏した。震えが走る。
五人目のメンバーに浩さんが呼ばれ、挨拶した。この挨拶は教えない。
会場にいた人間だけの秘密だ。
音楽が、これほどの力を持っているというのを
いつも、ライブで思い知らされる。
だけど今日のライブは特別だった。
私の中の音楽は、ここで育ったのだから。
オミオさんが言ってくれた。
「友達の、お坊さんなりたくて坊主の大学を出てさ、
栃木のお寺に婿養子に入った人がね、若い頃親とうまくいかなくなって、家を出たとき。浩さんが半年も自分の部屋に住ませてくれてたわけよ。その彼から今日、電話がかかってきてね。ちゃんと恩返しはできたか?って言うのよ。
『形はなくなっても、その中で育った魂みたいなものはなくならないから。
ちゃんとお前が受け取ったものは、お前が人に伝えて返すんだぞ』って。」
オミオさんはライブの間、普通にビールを売ったりして
店のために働いていた。
ライブの後も、店員というわけでもないのにCDを売って、店を手伝っていた。
彼女の幼い頃聞いた音楽は、
上のお兄ちゃんから影響を受けて聞いたものばかりだった。
だけど小学生の時、そのお兄ちゃんが水の事故で亡くなり、
彼女はそれからどの音楽を聞いていいのか、わからなくなってしまった。
中学校に入った時に
勇気をもってお兄ちゃんの通っていたレコードショップのドアを開けた。
「何のレコードを買っていいのかわからないの」
と、店の人に言うと、
「お兄ちゃんが聞いていたのがサイモン&ガーファンクルだったなら、
今はポール・サイモンとアート・ガーファンクルに別れて活動しているから
このアルバムが聴きやすいと思う」
そう教えてくれたのが、浩さんだった。
そこで、彼女の音楽の道はまた繋がった。
音楽は、生きる道だと思う。
ライブで身体中が踊らされる感覚と、
ヘッドホンで聴いたラジオ。
汚れるまで読んだ歌詞カード。
大好きなバンドが出した新しいアルバム。
音楽は、データではない。身体に、人生に、残っていくものだ。
JOYPOPSで開かれた、最初で最後のインストアライブ。
山口洋の奏でた音楽にはもう、言葉はいらない。
あの場にいた全員の